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本田哲也のGlobal Topics

スパイクスアジアPR部門審査委員長に聞く「社会とブランドが重なり合う点を探せ」

本田哲也

PR部門の審査員。中央がチャン氏、右端が嶋野氏。

「アジア版のカンヌライオンズ」と言われるスパイクスアジア。今年も9月27日から3日間、シンガポールで開催され、PR部門にはアジア各国から245作品がエントリーされた。今回のコラムでは、PR部門の審査委員長を務めたデビー・チャン女史のインタビューをお届けしよう。今年の審査基準や日本勢のエントリーをどう見ているのか。チャン女史は、オグルヴィPRの中国責任者であり、今年のカンヌライオンズの審査員も務めている。

「全体としては、少し新鮮味に欠けていたという印象です。多くのエントリーが、課題を解決する戦術に特化しており、感情に訴えかけてくるようなものは限られていましたね。そんな中、グランプリを受賞した『Meet Graham』(オーストラリア)はひときわ目立っていました。データに裏付けされたソリューションとして成立しており、同時に感情に訴える要素も持ち合わせています」。

グランプリを受賞したのは、カンヌでもゴールドを受賞した「Meet Graham」キャンペーン。交通安全キャンペーンの常識を変えるようなこの作品は、カンヌのグランプリを受賞した「Fearless Girl」(米国)と最後まで競り合った。

「審査基準は、アイデア20%、戦略30%、実施20%、そして結果30%。結果については、ほとんどのエントリーが数値的に説明できていたが、今回重視したのは数字を超える部分です。そのキャンペーンが政府や国連を動かしたのか、他国にも影響を与えたのか。すべてのキャンペーンが政府を動かせるわけではないが、重要なことは社会の文脈とブランドの目的が重なり合う点、いわば『ソウル・スポット』を探し当てることです」。さて、今年の日本勢の活躍はどうだったのだろうか。

「個人的に最も好きだったのは、PR部門ではシルバーを受賞した、ヤフーの『It Was This High』です。シンプルかつ視覚に訴えている。災害を忘れがちな私たちに気づきを与え、行動変容も促すかもしれない。そんな点を評価しました。日本の作品には、課題に対する深い理解とデザインマインドがあります。デザインや発明で解決しようとしているもの──例えば『GLICODE』(江崎グリコ)のような──はとてもユニークですね」。

一方、日本人審査員を務めた電通の嶋野裕介氏はこう見る。「日本からの応募作はアイデア面は高く評価されたものの、リザルト(結果)で引っ掛かったものが多かったです」。「日本のリザルトは、リザルトの手前」だとも。審査については、「CMでもなく、プロモーションでもなく、PRだからできることをしっかり議論できた」という。アジアビジネスにおいても、広報・PRはますます重要になる。日本の存在感をもっと高めていきたいものだ。ではまた来月!

本田哲也(ほんだ・てつや)

ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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