日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

REPORT

「愛に雪、恋を白」で、全身に電流が走った!あの名コピーが生まれるまで

一倉 宏(コピーライター) × 金子 茂樹(脚本家)

8月28日から9月3日にかけて、「宣伝会議コピーライター養成講座」の開校60周年記念イベント「コピージアム2017」が都内で開催された。その中からコピーライター・一倉 宏さん、脚本家・金子 茂樹さんのトークをお届けする。

(写真左)一倉広告制作所 コピーライター/クリエイティブディレクター 一倉 宏氏
(写真右)脚本家 金子 茂樹氏

「愛に雪、恋を白」と出会う

金子:僕が一倉さんのことを初めて知ったのは19年前、1998年の冬に「JR SKISKI」の「愛に雪、恋を白」というコピーを見たときです。当時は恵比寿でバイトをしていて、そのコピーを山手線の車内広告で見た瞬間、全身に電流が走りました。一倉さんにはこの20年の間ものすごい影響を受け、憧れのような思いを抱いてきました。

一倉:第一線で活躍する若い脚本家の方に、刺激とか影響を受けたと言ってもらえるのはありがたいですね。当時、このコピーのどんなところが金子さんの琴線に触れたのでしょうね。

金子:僕が山手線で目にしたコピーは、「愛・雪・恋・白」という漢字四文字が正方形に組まれたポスターでした。横から読んだら「愛に雪、恋を白」で、下から読んだら「恋愛」「白雪」となる。読んだときは本当に嫉妬しましたね。今でもドラマづくりの打ち合わせなどでアイデアに困るとその話をするくらい、大好きなコピーです。

一倉:「JR SKISKI」のキャンペーンは90年代に始まりました。映画などでも「ゲレンデの恋」は定番中の定番のテーマですよね。このテーマを正々堂々と、「雪」と「ラブストーリー」という組み合わせで、いかに照れずに強いコピーにできるかと考えました。

「愛に雪、恋を白」というコピーは、よく言えば掛詞(かけことば)なのですが、悪く言えばダジャレとも捉えられますから、そこはもう確信犯的に強く打ち出すことにしました。CMには吉川ひなのさんが出演して、音楽をGLAYが担当したのも大きかった。「Winter,again」という曲です。

金子:GLAYの名曲ですよね。

一倉:素晴らしいことにTAKUROさんが書いてくれた歌詞は、サビに「逢いたいから、恋しくて」とあり、「愛」も「雪」も「恋」も「白」も効果的に使われています。ミリオンセラーになった曲ですが、キャンペーン・ソングとしては理想的な形でしたね。

続きが気になる物語とは

一倉:金子さんはシナリオの書き方をどこかで習ったわけではなく、公募の賞に出した作品の入選がデビューのきっかけだったそうですね。

金子:はい。その前に、一次選考すら通過しなかった経験もあります。今思えば、自分の好きな世界だけを書いていたのが敗因でしたね。そこで自分はシナリオライターに向いていないんだろうなと思って、1年ほどシナリオを書くことも忘れていたくらいです。

ただ、宣伝会議の「CMプランニング講座」を受講した際、クリエイティブディレクターの箭内道彦さんが、公募の賞の審査に携わったとき「どの作品を残して、どの作品を落とすか」という視点について話をされたことがあったんです。その話が非常に腑に落ちて、それからは「どうすれば審査員が残したくなるか」という視点を持ち始めました。

何千通という作品が応募されてくるのなら、一次審査では最初の3、4ページだけしか読まない審査員もいるはずで、それなら冒頭に惹きつける内容を持ってこようと。

一倉:物語は、つかみが大事だということですね。

金子:「どうすれば審査員に5ページ目まで読ませることができるか」という視点を持って、理詰めで書くようになりました。それから、中盤は読み手を飽きさせないように各キャラクターを活かしたり、終盤にどんでん返しを持ってきたりといった枠組みを考えて書き上げました。その作品を応募したところ、フジテレビのヤングシナリオ大賞で大賞を頂き、伊藤淳史さんの主演で『初仕事納め』というドラマにもなりました。

一倉:『初仕事納め』のつかみはどのようなものでしたか。

金子:入社初日に遅刻した新入社員が出社後に土下座をして顔を上げたら、社員全員が土下座をしているという場面から始まる、「初仕事」と「仕事納め」が同時に来る物語です。

一倉:それは先を知りたくなりますね。コピーの場合は長くても十数行ですけど、一、二行目は最後まで読んでもらうための勝負になるわけで、考え方は近いと思います。それにしても、60分の内容を書くわけですから、コピーライターからしてみると相当体力があると感じます。

誰も扱わない土俵で勝負を

金子:ドラマは1時間で言葉を尽くして、コピーは数文字で人の心を捉えなければいけないという違いがありますからね。そのなかで、一倉さんの女性の心の機微を巧みに表現するコピーにはいつも驚きますが、あれだけ女心を捉えたコピーを書かれるわけですから、よほど女性的目線を持っているのか、これまでの人生で非常にモテてきたのか、どちらかだろうと思っています。

一倉:どうですかね。これまでもパナソニックの「きれいなおねえさんは、好きですか。」などの女性中心のコピーも書いてきて、「女の気持ちが分かっている」とか言われることもありました。ところが、私の家族や身近な女性から、「どうして分からないの」と言われることはすごく多いです(笑)。

金子さんこそ、『プロポーズ大作戦』(フジテレビ)や『世界一難しい恋』(日本テレビ)といった、まさしく男と女の心理戦である恋愛ドラマを書いているわけじゃないですか。そういう葛藤を表現するのがドラマですからね。それに、金子さんはドラマの設定もかなり工夫していると思います。

金子:やはり上手くいくだけのドラマなんか、誰も観たくないですから。自分は本当に上手くいかない恋愛しか経験してこなかったので(笑)、普通の恋愛ドラマを書いても面白くないという考えは常にあります。

今年4月期の『ボク、運命の人です。』(日本テレビ)というドラマでも、本来なら「運命」という誰もがバカにしそうな素材で、何の見通しもなく10話まで書きましたが、あえて誰も扱わないような土俵で勝負しています。王道のラブストーリーとは違うかもしれませんが、土俵上の敵はなるべく少ない方がいいですから。

一倉:わざと「恋愛ドラマらしくしない」設定にすることで、ドラマが動き出すのだろうね。

金子:僕は元々、ドラマや映画をあまり観ていなかったので、ドラマに興味がない人の気持ちもよく分かっているつもりです。どうしたら少しでも観てくれるか、という視点を持つよう心がけていますね。

設定も、普段ドラマを観ない人たちの目に留まるようなフックをつくるにはどうすればいいのか?といつも考えています。ただ、毎回3話くらいまで書いて、「俺はなんで、このテーマにしちゃったんだろう⋯⋯」と、自分とGOサインを出したプロデューサーを恨みながら内容を必死に絞り出しています(笑)。

「公の場でフリートークの経験はほとんどないので、緊張していました(笑)」と話していた金子さん。ニコニコと優しい語り口で時折鋭い質問を投げかける一倉さんに、金子さんも思わず笑顔!

イメージが思いつかないとき

一倉:ちなみに、金子さんは集中するとなるとものすごいパワーを発揮するタイプかな?

金子:1年に数回ですが、時を忘れる感覚はあります。しかし、その集中状態に持っていくまでが、本当に難しいです。スマートフォンも誘惑だらけで、自分が集中できなくなることが分かっているので、いまだに持たないようにしているくらいです。

一倉:僕はもう40年近く仕事してきたので、自分との付き合い方というか、飼いならし方が分かってきました。自分で「今日はできそうかもしれない」と思え、漠然としたイメージでもあれば集中できるようにもなっています。とはいえ、若いときは効率も悪く、「締め切りまであと何日だから、逆算するともうやらなければ」と、ベッドのなかに入ってからもずっとコピーを考えたりもしていました。

金子:僕も最近、やっと同じことを思えるようになりました。以前は、アイデアが出てこなくても逃げられず、「思いつかない自分が悪い」と考えるくらいでした。今は、「これだけ考えているのに出てこないなら諦めよう」と力を抜いたときに、アイデアが浮かんでくる経験をしたので、根を詰めすぎても仕方がないと。

一倉:僕も「どうやってコピーを書いているんですか?」とはよく聞かれますが、自分のなかで着地すべきイメージができたら、ほぼ「できた」と言えるんですよね。そのイメージを形に、言葉の意味や音を合わせていけばいいわけですから。

金子:これまで、サラッと書けたコピーもあったりするんですか。仕事にとりかかってからコピーが世に出るまで、どれくらいの期間がかかっているのでしょうか。

一倉:半年や1年近く、ウンウン唸りながらつくったコピーもあれば、本当にサラッと生まれたコピーもあります。例えば、今まで僕が書いてきたなかで一番有名なコピーは、「あなたと、コンビに、ファミリーマート」だと思いますが、あれはね、本当にサラッと書いたものなんです。

金子:一瞬でしたか。

一倉:そうですね(笑)。当時はまだ、テレビでも新聞でも「コンビニエンスストア」と呼んだり「CVS」と書いたりしていた時期でした。「コンビニエンスストア」は、日本人にとっては絶対長すぎる。そんなときに、若者たちが「コンビニ」と呼び始めていることに気づき、これだなと。

金子:そのコピーの文言も、一倉さんのなかから生み出さないといけない作業だと思います。イメージが浮かばないときにされていることは何かありますか。

一倉:しばらく放っておく(笑)。

金子:開き直るということですか。

一倉:最終的には机に向かってコピーを書くわけですが。常に「ああでもない、こうでもない」は考えていても、イメージがつかめるまでは書かない。広告コピーは短いですからね。脚本と違って。極端に言えば、締め切りの30分前でも書くことができる。それで先送りにしがちですが、追い込まれると辛くなるだけですから。これはこれで大変な仕事、いや、大変という意味ではどちらの仕事も同じかな(笑)。

会期中、1万2000人を動員した「コピージアム」。9月から大阪、金沢、札幌、名古屋、福岡を巡回している。

一倉広告制作所 コピーライター/クリエイティブディレクター
一倉 宏(いちくら・ひろし)氏

1955年生まれ。サントリー宣伝部、仲畑広告制作所を経て、独立。主な仕事に、サントリーモルツ「うまいんだな、これがっ」、パナソニック「きれいなおねえさんは、好きですか。」、ファミリーマート「あなたと、コンビに」、リクルート「まだ、ここにない、出会い」、JR東日本「愛に雪、恋を白」「MY FIRST AOMORI」など。TCC最高賞など多数受賞。

脚本家
金子 茂樹(かねこ・しげき)氏

1975年生まれ。2004年、『初仕事納め』で第16回ヤングシナリオ大賞受賞。代表作に『プロポーズ大作戦』(2007年フジテレビ)、『ハチミツとクローバー』(2008年同)、『きょうは会社休みます。』(2014年日本テレビ)、『世界一難しい恋』(2016年同)、『ボク、運命の人です。』(2017年同)などがある。宣伝会議のCMプランニング講座修了生。

REPORT の記事一覧

「愛に雪、恋を白」で、全身に電流が走った!あの名コピーが生まれるまで(この記事です)
変わりゆく企業アカウント Twitter「中の人」対談

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する