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本田哲也のGlobal Topics

プロパガンダと広報の分かれ道

本田哲也

北朝鮮情勢の緊張が高まっている。もはや過激な情報戦の様相を見せる北朝鮮の情報発信だが、これは僕たちが認識している「広報・PR」とは次元が違う。もっとも近いニュアンスは「プロパガンダ」だろう。今回は、北朝鮮も行う「プロパガンダ」をテーマに迫ってみよう。

北朝鮮の政府広報体制はどうなっているのか? 正確な実態は定かではないが、中核機能を担っているのは朝鮮労働党の「宣伝扇動部(Propaganda and Agitation Department)」だ。直球の「プロパガンダ部」だといっていいだろう。この宣伝扇動部が、すべてのメディアをコントロールしている。

われわれ日本人も報道で耳にする「朝鮮中央通信(Korean Central News Ag ency)」や「労働新聞(Rodong Sinm un)」などの国営テレビ局や新聞社、そして国営ウェブサイトの「Urimin zok kiri(ウリミンジョッキリ)」。2010年以降はFacebookやTwitter、YouTubeなどのSNSも積極的に活用している。従事するジャーナリストも経歴や思想をチェックされ、4、5年の観察期間が設けられる。言ってみれば、これらすべてが、北朝鮮という国の「オウンドメディア」というわけだ。

プロパガンダは、日本では「世論操作」「大衆扇動」などと訳されることが多い。そういった意味では北朝鮮の政府広報はまぎれもない「プロパガンダ」だといえるだろう。多くの人がナチス・ドイツの発明だというイメージを持っているが、そうではない。その源流はPRが生まれたアメリカにある。いわゆる戦争プロパガンダの始まりは、第一次世界大戦における米国の「クリール委員会」だ。クリール委員会はウィルソン大統領直轄で、「この戦争はデモクラシーで世界平和を実現するものだ」という戦争宣伝を展開した。

この戦争プロパガンダで、いわゆる「広報活動」全般に悪いイメージが終戦後も定着してしまう。これを苦慮した「PRの父」ことエドワード・バーネイズは、1928年にあえて『プロパガンダ』というタイトルで書籍を米国で刊行。イメージ回復を狙った書籍は大ベストセラーとなる。しかし世の中とは実に皮肉なもの。ユダヤ人のバーネイズが書いたこの本は、のちにナチス・ドイツの宣伝相ゲッペルスの愛読書となり、ユダヤ人を迫害したナチスの戦争プロパガンダにつながっていく。

「広報・PR」と「プロパガンダ」は、同じ母親から生まれていながら、それぞれの数奇な運命を歩んだ兄弟のようなものだ。その発想や手法論にそう大きな違いはない。正しく使えば大きな正のパワーを生み出すPRが「スター・ウォーズ」のジェダイだとすれば、プロパガンダは同じフォースを持ちながらダークサイドに落ちた姿なのかもしれない。ではまた来月!

本田哲也(ほんだ・てつや)

ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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