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広報活動の効果測定

ROIの前に「R」を問え! どうする?次世代広報のKGI

池田紀行(トライバルメディアハウス)

効果測定指標が多様化するなか、最適解が見つからないと悩む企業は多い。実はその根本的要因は「手段の目的化」「組織構造」にあるのかもしれない。多数の企業の広報についてアドバイスしてきた池田紀行氏が提言する。

広報の役割や領域が図1のように拡張するなか、多くの広報担当者が近年求めるべきは広告換算値以外の効果測定指標です。これまでは広告換算値を中心とした効果測定を行い、例えば「PR会社への月次外注コストが80万円、メディア露出(広告換算値)が240万円なら、ROIは300%(3倍)!」なんて報告をしていたかもしれません。

トライバルメディアハウス作成

図1 広がる広報の役割(PESO)
広報部はPaid Media以外のすべてに関与し、理解と評判と共感を獲得するという幅広い仕事を担っている。

しかし、そんな古き良き牧歌的な効果測定はもはや時代遅れになりつつあります。なぜでしょう。それは、「そもそも広告だったら優先順位の低いこのメディアには出稿しなかった」とか「うちはメディア出稿量が多いからまとめて発注していて、多額の割引がある。定価で広告費換算するのはおかしい」といった瑣末な話ではありません。

そもそも、「広告換算値」という指標が、「日々努力をして取り組んでいる広報活動は一体何のためにやっているのか?」という本質的な問いに答えていないことが問題なのです。

「測定のための測定」の呪縛

あなたや、あなたが所属する広報部門が頑張って広報活動をしているのは、何のためでしょうか。露出記事数を増やすため?リーチ数を拡大するため?広告換算値を最大化するため?

答えは、すべてノーです。現状、これらの指標で効果測定をしている企業がほとんどですが、大切なことを見落としてしまっています。つまり、「手段が目的化」しているのです。露出記事を増やすことも、リーチ数の拡大も、すべて目的を達成するための「手段」なのです。

例えば、新サービスのニュースリリースを打つ場合、あくまで目的は「新サービスの認知向上」や「サービスの理解促進」のはずです。BtoBのサービスであれば、「問い合わせ意向の向上」や、実際の「引き合い数の向上」かもしれません。露出記事本数やリーチは、あくまでそれらの目的を実現するための中間指標(KPI)なのです。

KPIばかりを追っていると、いつの間にか現場の仕事が「効果測定のための効果測定」の呪縛にとらわれてしまいます。KPI達成のために仕事をするようになってしまうのです。しかしそれでは本末転倒です。常に「今進めている仕事は、一体何のための仕事なのか」を意識し、KGI(目的やゴールそのもの)を測定・評価することが大切です。

「全国紙の一面を狙え!」の本質

新たな広報効果測定を難しくしている要因としては、おそらく多くの組織に当てはまることになる「三大疾病」があります。

まず年度の売上予算という「分かりやすい目標」を持たない広報部の貢献度を客観的に測定・評価できない最も大きな要因が、ひとつ目の「手段の目的化病」。これを読んでいるあなたも、社長や役員から「全国紙の一面を獲ってこい!」「WBS(ワールドビジネスサテライト)に売り込め!」という無茶振りをされたことがあることでしょう。

確かに、数百万~数千万人にリーチする全国紙での一面掲載は魅力的。日経一面に掲載されれば誇らしい気分になるでしょう。しかし、日経などの全国紙一面に載ることは手段であって目的ではないのです。

「大きなリーチを獲得するだけでなく、信頼面でのブランド価値が向上する」「新商品や新サービスの認知度を向上させることができる」「新商品や新サービスの特長を深く理解してもらうことにつながる」「それによって、良質な引き合いの向上や売上獲得につなげたい」という明確な課題設定に対するカウンター施策と位置付けるべきです。

すべての施策は目的や課題を解決するために実施されるべきで、露出量やリーチ数、良い論調の記事が増えることは、必ずしも目的ではありません。手段が目的化すると便宜的な広告換算値やリーチ数、ソーシャルリスニングの結果、論調調査など「手段を測る指標」をKPIに設定してしまい、KGIがうやむやになりがちです。そうなると、どこかで図2のように社内で壁にぶつかってしまいます。

図2 「手段の目的化病」で広報がぶつかる壁

例えば「新卒採用で理系人材の入社意向を高めたい」という課題がある場合、採用広報を強化することで理系学生における自社の認知度、理解度、純粋想起率、好意度、入社意向がどれほど向上したのかを施策の前と後で比較するといったやり方が考えられます。

つまり広報効果測定は測定方法が難しいのではなく、目的が決まっていないことがすべての元凶。測定の前に目的を問え。ROIの前にRを問え。これを肝に銘じてほしいと思います。

年間PRカレンダーの棚卸しを

2つ目の疾病は「年間PRカレンダー病」とします。どんな会社にも年間のPR活動予定のスケジュールがあり、それぞれの施策の担当が決まっていることでしょう。問題は、その多くが過去から長く続いているルーティン施策であるということ。誰が、いつ、何のために(どんな課題を解決するために)始めた施策なのかが不明確なまま、毎年遂行することに誰も疑問を持たずにいるというわけです。

広報部は宣伝部やマーケティング部よりも、ジョブローテーションの期間が短い部門だと筆者は認識しています。毎年、かなり多くの新任担当者と広報関連の講座で出会うのですが、部門内のルーティン業務を引き継ぐことで手一杯なのだろうという状況だと察しています。

それゆえ、「これは一体いつ、誰が、何のために始めた施策なんだろう。この施策によって、どの指標がどんな数値になれば、成功とみなされるんだろう?どの指標がどの数値だと失敗とみなされるんだろう?」というところまで思考が及ぶ新任担当者は少ないと思われます ...

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