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広報活動の効果測定

メディア露出は絶対的価値ではない? 多面的な「報道分析」の方法

髙雄宏政(広報コンサルタント・ジャーナリスト)

広報効果測定の一手段として知られている「報道分析」という手法。編集部調査では、その実施割合は2割程度に留まっている状況だ。多面的で複雑な分析を導入するにあたり、押さえておきたいポイントとは。

広報活動の効果測定が年々、注目を集めるようになってきた。経済広報センターが3年に一度行っている「企業の広報活動に関する意識実態調査」によると、広報効果測定を実施している企業は2009年(発表時)が60.0%、2012年は64.5%、2015年は74.5%と、急速に増加している。

ただし、その中身は、「新聞などに報道された文字数・行数・頻度」を調べたり、「記事をプラス・マイナス・中立などに分類し測定」したりという程度で、定まった手法が用いられているわけではない。このため、同調査で「広報部門の日頃の悩み」を聞くと、「広報活動の効果測定が難しい」という回答が突出して多く、7割以上(複数回答)を占めている。

広報会議編集部が2016年末に行った調査でも、広報効果測定の実施企業は76.6%とほぼ同率なので実態に近いといえるだろう。また今回の特集で取り上げられているもうひとつの編集部調査では、「報道分析を実施している」と回答したのは約2割だった。その実施内容について見ていくと、実際の現場では限定的な取り組みに留まっているという印象だ。

では、広報効果測定とは何なのか、その目的や役割を考えてみたい。広報効果を測定する方法には、マスコミが発表する企業ランキング調査や公的機関が実施している各種顕彰制度などのほか、マスコミサーベイや株主に対するIR調査などがある。一方で「報道分析」とは、新聞や雑誌、テレビ、ウェブサイトなどのメディアで報道された記事の件数や内容を定量的かつ定性的に分析することを指す。

具体的には「メディアでの露出状況・記事傾向・論調のウォッチング」「情報発信(記者へのインプット)に対する露出(記事としてのアウトプット)の確認」「露出状況の定点観測およびベンチマークとの比較」などを行い、広報活動の課題を抽出・明確化することを目的としている。

したがって報道分析はKPI(重要業績評価指標)の機能を持つが、それだけでは広報戦略上の課題を解決できるわけではない(図1)。あくまで課題解決に役立てるための指標と位置づけるべきである。

筆者作成

図1 広報効果測定とその目的

広告料金換算値の問題点

報道分析に基づく広報効果測定では、これまで記事を広告と見なし、その掲載スペースや放送時間から広告料金を算出する「広告料金換算値」が広く用いられてきた。これはパブリシティの成果を媒体の影響力に応じて直接測ることができ、作業が簡単で、コストパフォーマンスも高い。

しかし、この数値だけでは、広報効果を正確に測ることはできない。広報の基本は、健全な媒体に幅広く露出させ、企業イメージを高めていくことにあるが、広告料金換算値は広告料金の高いメディアを重視するため媒体偏重になりやすい。

実際、テレビのゴールデンタイムに1回でも放映されれば、新聞や雑誌に掲載された記事を集めてもかなわない。広告料金だけに重きを置いてしまうと、それでも良いということになりかねないのだ。そうなっては本末転倒である。このほかにも、広告料金単価の算出方法が曖昧なため、信頼性に欠けるといった問題もある。

こうした背景もあって、ロンドンに本部を置くメディアやコミュニケーションの調査・評価に関する国際団体「AMEC」(International Association for Measurement and Evaluation of Communication)が、2010年6月にスペインで国際会議「効果測定に関する欧州サミット」を開き、後に広報PR業界で大きな反響を呼ぶことになる「バルセロナ宣言」を採択した。

サミットでは効果測定に関する7つの原則が示され、その第5条で「広告換算で広報の価値を測ることはできない」としたのである。

その後、2015年9月に更新された「バルセロナ原則2.0」では、「広告換算値はコミュニケーションの価値ではない」という表現に変わったが、このAMECの見解は、それまで世界的に広く使われ、広報効果測定の指標となっていた広告料金換算値を否定するものとなった。

報道分析の実施状況
Q.報道記事の分析による効果測定を実施していますか?

出所/編集部調査B n=113

欧米で示されている分析手法

他にも広報効果測定をめぐる、グローバルの動きを押さえておこう。広報効果を測る方法としては、欧米の学者やPR実務者などから高度な分析方法が示されている。『広報・PR効果は本当に測れないのか?』(トム・ワトソン、ポール・ノーブル著、ダイヤモンド社)によると、Preparation(準備)、Implementation(実践)、Impact(影響)の頭文字をとって名づけた「PIIモデル」が紹介されている。

これは「メッセージが適切に収集されているか」「メッセージが適切な人々に配られているか」「目標とする成果を上げたか」という3段階ごとに評価しようというものだ。ほかにも、バックグラウンド情報、メディアの妥当性、メッセージの質などのインプットと、メディアの掲載量などのアウトプット、その成果であるアウトカムの各段階について評価する「マクロ・モデル」も説明されている。

しかし、これらの方法は理論的すぎて具体性に乏しく、実際にやると人員やコストの面で多大な出費を要する。さらに重要なことは、実際の報道はインプット情報だけで成り立っているわけではないということだ。報道分析に取り組む上で、現代的なメディア環境の特性を押さえておきたい。

(1)リリースからの露出は39.1%

例えば、当社でニュースリリースなどの情報発信がどのくらいの割合(ヒット率)で記事になるのかを一般紙で調べたところ、その割合は39.1%(n=1万8852件)だった。また、当該企業の全記事の中で、リリース情報に触れている記事の割合(アウトプット占有率)は36.9%(n=同)に留まり、記事全体の約3分の2は記者が独自に取材したか、特集企画などで、インプット情報とは直接関係のない報道となっている。

つまり、アウトプットだけに注視していると、多数を占める情報発信とは関係のない記事をどう分析するかが課題として残るのである。

(2)記事スペースは拡大傾向

当社が行っている報道分析を集計した統計資料をもう少し紹介すると、新聞記事1件当たりのスペースは、文字の拡大、紙面のビジュアル化、特集記事の増加などもあって年々増加する傾向にある。2005年には記事1件当たり147.1平方センチメートルだったものが、2016年には197.4平方センチメートルと、12年間で3割以上も大きくなっている(n=13万4219件) ...

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