新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
現在、全国で600社以上もあるといわれる家事代行業者。その可能性に着目した大手企業の参入も見られますが、多くは中堅企業で広報活動の体制が確立していません。そんな中で積極的に広報を展開しているのがCaSy(カジー)です。
創立は2014年1月。大手監査法人で公認会計士として働いていた代表取締役CEOの加茂雄一氏が、ビジネススクールで知り合った2人の男性と立ち上げました。公認会計士として多忙を極めていた加茂氏は、妻の妊娠を機に家事をするようになったものの、なかなか上手にできない。
そこで、家事代行サービスを頼んだところ、すぐ来てほしいのに見積もりやらサービス員とのマッチングやらに時間がかかり、やっとサービスを受けられたのが3週間後という実態に直面しました。それを機に、異分野で働いていた2人の仲間とともに、依頼者を待たせないシステムを構築して業界に参入したのです。
その強みの最たるものは、インターネットを使った申し込み制度。ネット上でサービス員(同社では「キャスト」と呼ぶ)が確保できる日を確認した上で申し込めるので、依頼者は無駄に待つ必要がありません。さらに、マッチングに人件費がかからないので、サービス料が1時間2190円~と業界最安値水準であるのも人気の理由です。今では利用登録者数が約2.5万人、キャストは1500人、比較サイトなどでは常に人気ランキング1~2位を誇る企業に成長しています。
リリースで企業努力を伝える
そんなカジーが今年5月に配信したのが、サービス提供エリアの拡大を知らせるリリースです。通常なら、拡大した地域に広告を出したり、チラシを配布したりすることを考えがちで、リリース配信を考えるケースは少数です。同社では週に1度、社員による経営会議を開いて情報を共有し合っています。その席でエリア拡大を知った広報担当の里田恵梨子さんが、今回のリリース配信を思いついたそうです。
現在、家事代行業界では働き手不足が大きな課題となっています。サービスを提供できる人材を確保できないために、エリアも拡大できずにいるのです。里田さん自身もエリア外の消費者から「うちの地域に来てもらうことはできませんか」「エリアが広がる予定はないのですか」といった電話を受けることが多く、少しずつエリア拡大を進める企業努力を伝えるためにもリリース配信が有効だと考えたといいます。
では、実際のリリースを見ながら話を進めましょう。(ポイント1)1枚目では、主たるメッセージの「エリア拡大」をタイトルとビジュアルによって一目で分かるように見せています。特に社内デザイナーが作成したという地図が分かりやすく、メディアにもこのまま転載されていました。
ただし、エリア拡大だけで目を引くリリースになるのかという点は里田さんにとっても疑問だったといいます。そこで秀逸だったのが、(ポイント2)「子育て世帯急増」「生活の支援やゆとりの提供」といった時事ワードを組み込み、社会性を加味したこと。実はもともとそうした地域を狙ってエリア拡大したのではなく、リリースを作成する段階で調べたところ、ちょうどエリアを拡大する地域が「夫婦と子どもからなる世帯数」が多い地域だったため、こういう味付けにしたのだそう。
このように、自分が使いたい(都合に合った)データを探し出して引用するのも、リリースの重要なテクニックのひとつです。その結果、見事『日経MJ』などで掲載を勝ち取ることができました。また保険会社から「契約者へのサービスに利用できないか」という提携話も持ち込まれるなど、読者の目に触れたことでビジネスの拡大や売上にもつながっています。
特集を狙うための工夫
今回はもうひとつ、カジーがよくメディアに取り上げられるきっかけとなった「カジー裏技選手権」のリリース(2016年12月配信)も紹介しましょう ...