「マーケティング発想のPR」を実践している企業のインタビューを隔月でお届けする本連載。今回は住友生命の創業110周年記念のイベント会場にて、CSVの取り組みについてうかがいました。
「陰徳を積む」からCSVの実践へ
片岡:創業110周年の記念企画として、「スミセイ バイタリティ アクション」を実施中とのこと。トップアスリートたちを招いて全国で「親子スポーツ教室」を開き、健康増進に取り組んでいるそうですね。本日(7月23日)も、リオ五輪銅メダリストの奥原希望選手によるバドミントン教室を取材させていただきました。
藤本:110周年にちなんで、「全国110カ所」で実施しようということになりました。今年7月にスタートして、今年度は全国20数カ所で開催します。
片岡:全国にある支社にも協力を呼びかけたのでしょうか。
藤本:はい。今までの社会貢献活動は「本社が何か取り組んでいるけど、支社はよく知らない」ということが多かったのですが、今回は全国89カ所の支社に声をかけ、どのタイミングで、どんなスポーツ選手に来てもらいたいかを聞きました。
片岡:全国の社員も一緒にプログラムに参加していくわけですね。
藤本:そうですね。「健康増進」をキーワードに、お客さま、職員、そして社会全体を巻き込んで新しい価値を生み出すCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)プロジェクトの柱のひとつにしたいという想いでやっています。
当社の場合は「善行は人の見えないところで行うべし」、つまり「陰徳を積む」という感じで、社会貢献活動は良くも悪くも地味な活動が中心でした。しかし、そこは変えていきたいと思っています。企業ブランドとCSR活動を融合させて、世の中にしっかり伝える。そうすることでその活動が世の中に広まっていく。そういう形のCSRを実践していきたいです。
片岡:世界トップクラスのアスリートが参加するとなると、社員のモチベーションも上がると思います。「たいせつな人とカラダ動かそう」というキャッチフレーズもいいですね。
藤本:シニア層は結構身体を気遣いますが、子育て世代や若い世代は日々忙しく、意外と健康や運動習慣がおろそかになっていると思うんですね。その世代の方々にもっと身体を動かす機会になればと考え、親子参加型にしました。今回は親子が対象でしたが、若者世代が皆で楽しみながら健康になれるような活動も考えています。運動はひとりでやるとなかなか続かないですが、誰かと一緒なら続けられます。その楽しさをプログラムを通じて伝えていきたいです。
「健康経営」の精神を事業で体現する
片岡:事業にも今後、変化がありそうですね。
藤本:来年度には「バイタリティ」という、世界的な保険サービスを導入する予定です。もともと南アフリカで生まれた商品サービスで、健康に向けた行動を評価して、保険料を下げたり、パートナー企業からの特典を提供したりします。この商品は世界的に広がっています。
片岡:商品名が「バイタリティ」なのですね。
藤本:CSVを提唱しているマイケル・ポーターさんにもCSVの事例として紹介された商品です。これを機に健康増進型保険を広めるだけではなく、社会貢献も健康増進型を増やして、「健康経営」で職員も健康になって……と、三位一体でやっていこうという方針です。
片岡:多くの企業が経営戦略の中で、CSRやCSVを目標に掲げていますが、いくつかの「柱」の中のひとつというケースが多いようです。住友生命では経営戦略の最優先課題として中期経営戦略の中でCSVがうたわれています。
藤本:現社長の橋本(取締役代表執行役社長 橋本雅博氏)が2014年にトップに就任した際、「お客さまからみて『薦めたい』会社、職員からみて『いきいきと働ける』会社、社会からみて『なくてはならない』会社」が目指すべき理想の会社であると話しました。もともと我々保険業は生命保険を通じて世の中に役立っているのですが、そこに安住するのではなく、新しい価値を創って世の中に新たな貢献をしていきたい。そこから始まったのが、このプロジェクトです。
片岡:素晴らしいと思ったのは、全国で働くライフデザイナーなど従業員の方々にしっかり浸透させようとしているところです。理念として掲げるだけではなく、本業にきちんと関連付けたCSVとしてプランされています。
藤本:まさにそのための「健康経営」ですし、社会貢献も従業員参加型だと思っています。「健康になりましょう」と、お客さまに言っているのに自分たちが不健康ではダメですからね(笑) ...