ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
サントリーがわずか1日で公開を取りやめた動画「絶頂うまい出張」は、出張先で出会った女性と一緒に飲んでいる設定で、女性が官能的な声と表情で「コックゥ~んしちゃった」などと言うもの。公開直後から下品などと批判の声が広がった。
「なぜこんな動画が制作されたのか」「炎上は防げたのか」「目くじら立てる方がおかしい」など、ネットには様々な声が出ているが、ここでは広報として今回の騒動をどう受け止め、次に活かすかという観点から考えてみたい。
ネットはおまけではない
アルコール商品は表現に制約が多い。特にテレビCMはルールが厳しく、未成年に飲酒を促すものでないことはもちろん、「ごくごく」「ぐびぐび」などの表現や効果音もアルコール依存症の人たちへの配慮や飲み過ぎを助長しないために使わなくなっている。
これに対してネット動画は、一般的にチェックの目が弱い。テレビや紙面の広告に比べてネット動画はそのおまけ的な位置づけで、確認している人数自体が少ないことが多く、最低限のルールだけクリアすれば公開されてしまうことが少なくない。
ネット動画に知見のある人もまだ少なく、「ネットでは話題にならないと見てもらえないから、マス広告でできないような極端な表現や際どいものがウケる」などという話を聞かされ、過去に「バズった」例を紹介されて制作者に任せてしまうというのが典型的なパターンだろう。
ここに落とし穴がある。たくさんの人に見てもらってナンボという考え方に反論は難しい。しかし、ネットは最初のリーチ数ではマスメディアに及ばないかもしれないが、容易に国境を越え、見た人の反応がダイレクトに起き、また共鳴しやすく、激しい批判や不買運動など直接的な行動につながりやすい側面がある。制作時はターゲットオーディエンスを意識して議論するが、見て反応するのはグローバルオーディエンスであり、意識が必要なのはグローバルルールである。ネットはマスメディアのおまけではないのだ。
なぜサントリーが?の声
騒動後に出たネット記事に、動画制作の担当者を知るという電通の同僚が匿名で「炎上やむなし」だったなどと語っている。広報も通さずに取材を受けたのだろう。守秘義務もあるはずだが、これも契約の範囲内なのか甚だ疑問だ。こうした意識では、長年にわたってルールを守りながら工夫を重ねてブランドを育んできた人たちの努力が容易に失われてもおかしくない。
炎上が広がった際、「なぜサントリーはこれにOKを出したのか」という声が少なからず見られた。内容的にアウトであると同時に、企業イメージにも合っていないというメッセージだ。広報としてはまず、これを感じ取れる肌感覚と知見を持ち、マーケティングを後押ししつつもブランド毀損にならないチェック体制ができるよう日頃の啓発も含めた連携をとっていきたい。
社会情報大学院大学 客員教授・ビーンスター 代表取締役
米コロンビア大院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。2017年4月から社会情報大学院大学客員教授。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。 |