1日に報じられるニュースの量が限られている以上、ネタが少ない時期の方が売り込みは成功しやすい。記者の手が空くタイミングを狙うことも重要だ。
高校野球の話題が新聞やテレビを賑わす季節がやってきた。母校や、故郷の代表校の活躍に一喜一憂している人も多いだろう。大正4(1915)年に始まり、今年99回を迎えたこのスポーツ大会はすっかり国民的行事として根付いている。
これを第1回から主催してきたのが朝日新聞であることは周知の通りだ。テレビ中継を見ていると、社名やロゴマークがたびたび映し出されるから、大きな広告効果を生んでいることは想像に難くない。
ただ、新聞社が100年にわたって夏休みシーズンに野球大会を主催してきたもう一つの狙いについては、それほど知られていない。実は、新聞社にとっては「夏枯れ対策」という側面があるのである。
ニュースが少ない時期を狙う
夏枯れといえば、商売をしている人にとってはおなじみの現象だろう。毎年、お盆の頃になると消費は細る。暑くなって出歩く人が減ったり、工場などが夏休みに入ったりして経済活動が停滞するからだ。
これに似た現象は、新聞やテレビなどのニュース業界でも「ネタ枯れ」という形で起きる。経済ネタは上記と同じ理由で減ってくるし、政治ネタも選挙がある年を除けば国会が閉会中なのであまり出てこない。新聞はお盆の期間だけページ数を減らすなどの対策をとるが、それでも紙面を埋めるのはなかなか大変なのである。
そこで、「ニュースがないなら、自分でつくればいいじゃない」という発想が出てくる。実際、テレビや新聞のニュースをよく観察すると、ネタが枯れそうな時期に自社主催のスポーツ大会や文化事業を巧みにはめ込んでいることが分かるだろう。
前回、報道機関がネタをどれだけ大きく取り上げるかは、ニュース価値によって決まると書いた。しかし、「扱い」の大きさを左右するのはそれだけではない。もう一つ、「報道機関の事情」という要素が関わってくる。その最たるものがニュースの量と、それを報じる「枠」との需給バランスなのである(図1)。
一般に、新聞にしてもテレビにしても、1日に報じることができるニュースの量はほぼ一定である。しかし、ニュースの側はそうした都合を「忖度」して発生してくれはしない。ネタが少なすぎて枠を埋めるのに苦労する日もあれば、政治・経済・社会の各分野で一斉に大事件が起き、枠内に収めるのに苦労する日もある。言い換えれば、ニュースが少ない日には、価値が低いネタでも大きく扱われるし、多い日には価値に比べて扱いは小さくなるのである。
広報担当者が記者にネタを売り込む際には、こうした需給を押さえておいた方がいい。せっかく価値が高いネタでも、大ニュースが続発している時期だと扱いが小さくなったり、場合によってはボツになったりするからだ ...