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クリエイティブ発想で共感を呼ぶPRの実践

カンヌライオンズPR部門審査会では、何が話し合われていたのか

本田哲也(ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長/カンヌライオンズ2017 PR部門審査員)

国際的なクリエイティブアワードは、最先端のアイデアや事例の見本市でもある。6月にフランス・カンヌで開かれた「カンヌライオンズ2017」では、PRをめぐってどんな議論がなされ、どんな事例が評価されたのか。日本からPR部門の審査員としてカンヌに参加した本田哲也氏が、審査を経て見えてきた今年の傾向を5つのポイントにまとめた。

PR部門の審査には世界中から21人が集結。とはいえ欧米系が多く、アジアからは本田氏を含め2人だった。審査委員長はオムニコムPRグループのカレン・ヴァン・バーゲンCEO。

世界最高峰の広告祭として知られるカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルが6月17日から24日まで、フランスのカンヌ市で開催された。今回僕は、PR部門の審査員という大役を仰せつかり、世界中から招聘された21人の審査団のひとりとして、2000件を超えるPRエントリーを審査した。その模様と受賞作品についてレポートをしてみたい。

パブリシティから行動変容へ

カンヌライオンズは、2011年に正式名称から「広告」の文字を消し去り、「クリエイティビティ・フェスティバル」となった。これは、「クリエイティビティが発揮されるべきは広告に限らない」というメッセージでもあり、これに先立った2009年にPR部門は開設された。待ってましたとばかりに世界中からのエントリーは毎年増え続け、PR部門の作品数は6年で5倍の2000エントリーに膨れ上がる。

カンヌライオンズは、世界のPRパーソンの参加率を高めるべく、審査員にPRのグローバルエージェンシーのCEOといった人たちを招聘した。そうしてPR業界を取り込んでいく過程で、審査基準そのものも見直されていくことになる。その甲斐もあって、2015年にはPR会社のエントリーが広告会社を超えた。

「パブリシティは歯磨きするのと一緒」──2011年のカンヌPR部門の審査委員長を務めた、フライシュマン・ヒラードCEO(当時)のデイブ・セネイが記者会見で記者の質問に答えた言葉だ。ニュースをつくることはPRパーソンにとって歯磨きのように当たり前にやることで、重要なことはそのパブリシティで何を起こすかだ。まさに本質的なポイントで、2011年はPRの評価基準が定義された年となった。

これが、ここ数年のPR業界で広く言及されるようになった「ビヘイビアチェンジ(行動変容)」だ。5年前の時点で、世界のPR業界では「本来目指すべきもの」として認識されたわけだ。カンヌに限らず、多くのPRの国際的アワードにおいて、ビヘイビアチェンジが起こったか=人の行動を変えることができたのか?が評価基準となった。

PR部門に2208件の応募

さて、話を2017年のカンヌに戻そう。例年1万5000人もが参加するカンヌライオンズは間違いなく世界最大規模だ。アワードへの今年のエントリー総数は4万1170件。そのうちPR部門が2208件だった(うち日本からのエントリーは91件)。これをわずか21人の審査員が担当するのだから大変である。審査員の顔ぶれは、委員長を務めたオムニコムPRグループCEOのカレン・ヴァン・バーゲン女史をはじめ、そのほとんどが世界的な大手PR会社の地域責任者やローカルオフィスのCEOレベルか、独立系エージェンシーの創業代表者など。

「かれこれPR歴20年よ」なんてプロばかりである。国籍でいえば、ヨーロッパ系と南米系がもっとも多く、次いで北米やオセアニア。純粋なアジア人という意味では、中国の女性と僕の2人のみであった。また、女性が活躍するグローバルなPR業界を反映し、21人中13人が女性審査員だ。

かように多様な21人は、それぞれの自国で5月には一次審査を開始していた。それぞれに数百のエントリーが割り振られ、それを決められたクライテリア(審査基準)によって黙々と評価していく作業だ。この間にも、すでにメッセンジャーアプリでつながった審査員たちは簡単な意見を交換するなどして交流と連携を深めていく。そして、カンヌライオンズ開催の5日前となる6月12日、いよいよ僕たちは滞在先のホテルで一堂に会し、6日間にわたる本審査が始まることになる。

現地での本審査プロセス。最初の3日間は、4、5人の小グループに分かれて会議室に日がな一日閉じこもり、再びランダムに仕分けられたエントリーを審査していく。皆で2分間のエントリームービーを観ては、貸与されるパッドを使って黙々と投票を続ける。質問や意見交換がたまに交わされるが、基本的には同じ作業の繰り返し。かなりの集中力が求められる。

そしてようやく迎えた4日目に、再び審査員全員は大会議室に集合する。ここからの仕事は、まずは一次審査を突破した「ショートリスト」を完成させること。全員の目の前には、ショートリストの「たたき」となるロングリストが配布され、リストに残すべきか落とすべきか、はたまたリスト圏外から入れるべきエントリーはないかが議論される。必要なら何度でもムービーを観て、エントリー書類の再確認が繰り返される。このあたりで、おおまかな今年のエントリーの傾向やトレンドなどの全体像が見え始めたように思う。

そのPRが行われた社会的なコンテクスト(文脈)、その国特有の文化的背景などが明確でない場合は、もっともそれを説明できる審査員によって全員に共有される。こと日本のエントリーにはその手のものが少なくない。2020年東京オリンピックが持つ意味、日本人特有の清潔志向、子どもの教育課題、あげくに蕎麦の本来の食べ方まで(何のことやら、と思われるだろうが)、僕も説明を求められることとなる。

それを全員が理解したうえで、PRとしての評価やクリエイティビティとしての評価がなされるわけだ。これは国際賞の宿命でもあり、日本のエントリーの課題でもある。こうして、長い長い時間をかけた「ショートリスト」が5日目に完成し、翌日に公式発表。僕たちは審査最終日を迎えた。

最後の大仕事は、このショートリストの中からブロンズ、シルバー、ゴールドの各賞を選出し、そして最後にゴールドの中から2208エントリーの頂点に立つグランプリを決めることだ。翌日の発表を前に、文字通り「カンヅメ状態」となった審査員は、50のブロンズ、32のシルバー、17のゴールドを、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論とともに選出していった。ランチタイムはおよそ15分、ディナーは出前のピザを審査しながらかじった。グランプリが決定し、すべての審査が終了したのは午前2時。審査開始から17時間が経過していた。

自走するアイデアを評価

ここで、今年の「審査方針」について少し触れておこう。パブリシティ露出は当たり前の話で、「ビヘイビアチェンジ」が成果指標であるということは、すでに審査員全員が理解している与件である。今年はそれに加えて、審査委員長から「Earned at the core(アーンド・アット・ザ・コア)」という大方針が提示されていた。

この意味するところは、核となるアイデアが「Earned(アーンド)」なものであるかどうか。つまり、アイデア自体が自走する力──話題性や社会性など、必然的に関心を集めるパワーを保有しているかという観点だ。「ペイドメディアではなくアーンドメディアが活用されているか」といった戦術的な評価ではなく、あくまでアイデアの本質が評価対象であり、「Earned atthe core」である限りそのキャンペーンは世の中で増幅されるはずである、という前提に立っている。

さていよいよ、今年の審査や議論のポイントを、受賞作品とともに紹介していこう。大きく5つの観点があり、僕はこれらが今後の世界のPRの潮流にもつながっていくと考える。では、順番に見ていこう。

(1)社会課題への挑戦と勇気

1つ目のポイントは、数年来続く「ソーシャルグッド」の流れを継承しつつ、より大きな社会課題への「挑戦」と「勇気」だ。この「勇気」というのがポイントで、ただ単に社会問題とからめたり、「良いこと」をしているだけでは評価されない。それが、場合によっては物議をかもすくらいの問題であるかどうか。このど真ん中をいったのが、グランプリを受賞した「Fearless Girl」(米国)だろう。

「チャージング・ブル」といえば、ニューヨークのウォール街にある巨大な雄牛(ブル)の銅像。今にもチャージ(体当たり)しそうな荒々しいブルは株式市場のエネルギーやパワーの象徴で、マンハッタンの観光名所でもある。米投資会社のState Street Global Advisorsは、このブルに真っ向から立ち向かう構図で「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」と呼ばれる銅像を設置。

女性の活躍が限られ、ジェンダーイコールの課題が大きい金融業界に一石を投じた。このキャンペーンはたった12時間でTwitterの10億リーチを達成し世界中の話題となり、同社が運用する女性活躍を指標にした「SHEファンド」の売上は384%を記録した。

「Fearless Girl」はPR部門をはじめ、4部門でグランプリを受賞する快挙となり、今年のカンヌを代表する作品のひとつになった。こうしたControversial(物議をかもす)なキャンペーンは、不確実性の増す現代社会では歓迎されるべきものだ。ソーシャルメディアの定着した情報環境では、保守的なメッセージはそもそも日の目を見ない。

しかしながら、これは同時に企業のリスクが増大することも意味する。成功すれば賞賛され評価されるが、「勇敢」になればなるほど、裏ではリスク管理も必要になってくる。これは、PRの世界において、今後クリエイティブとリスク管理の専門家の「協業」が増大することを示唆しているのかもしれない ...

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