800近くある国公私立大学が受験生や資金を求めて競争する教育現場。スポーツ選手を多く輩出する東洋大学で広報を務める榊原康貴氏が、現場の課題や危機管理などの広報のポイントを解説します。
5月から6月は大学内でいろいろな行事が目白押し。年度末から計画していたイベントなどが一気に動き出す時期なのです。
広報課でも春から進行していた学内広報誌や法人案内などの校了シーズン。作業に忙殺されると、つい忘れがちなになることが「なぜこれをつくるのか?」という問いかけです。
そのタイミングで、社会情報大学院大学でゲスト・スピーカーとしてお邪魔してきました。時折ご依頼のあるこうした講義では、大学業界の振り返り・東洋大学の立ち位置や「大学広報は何のためにあるのか?」という根源的な問いかけを自らにする絶好の機会となります。
そこで、今回は広報の目的意識を考える機会について書きたいと思います。
社会情報大学院大学で講義
5月下旬、夕方18時半からの講義にお邪魔しました。仕事を終えた40人近くの院生の聴講がありました。
この日の講義は本誌6月号でご執筆された井上邦夫先生の「コーポレート・コミュニケーション」です。聴講者は4月から広報について学んでいる方たちなので専門知識はある程度持ち合わせていると思われます。とはいえ井上先生の学術的な講義の間に挟まれるゲスト・スピーカー。学術的な内容というよりは大学の広報事例を中心としたものにする必要があります。この講義では広報での組織連携がテーマだったので、業界は異なれど何らか現場での課題意識は共有できると考えていました。
しかし、聴講される多くの方が広報に強い関心があるにせよ、大学業界は未知の世界。企業の広報活動と共通点はあるものの、18歳以下の人口減少で縮小するマーケットや幅広いステークホルダーの考え方など、大学特有の事情から発した課題も多いのです。
こうした機会でなくとも、大学を取り巻く環境・マーケットの整理は日々アップデートしておかなくてはいけませんし、行政や国の動きや高等教育のトピックなどのネタもこまめにチェックすることも大切です。世間で話題になっている時事ネタなどを通じて、このテーマだったら、私たちはどのように広報するだろう?などと考えをめぐらせることも多くあります。世間の話題から広報の必要性を感じる出来事はたくさんあるのです。
さて、ゲスト・スピーカー最大のミッションは、大学広報の必要性を院生の皆さんに分かりやすく「広報する」ことにあります。分かりやすく伝えることが広報の重要な仕事であるならば、まさにうってつけの機会です。このように東洋大学のことを語る際、私自身「なぜ大学に広報が必要なのだろう?」という根源的な振り返りへつながります。つまりゲスト講師と言いながら、自分自身にとっても勉強できるチャンスなのです ...