新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
私は、PRやカレーの専門家として活動する一方で、食品開発やまちおこしのプロデュースも手がけています。今月は、そんな案件のひとつである「はこだてチャウダー」のリリースをテキストにしてみましょう。
地域雇用の創出が目的
依頼主は北海道函館市の「はこだて雇用創造推進協議会」で、2015年に厚生労働省から2度目の「実践型地域雇用創造事業」の委託を受けました。地域資源を活用した新商品の開発と販路の開拓を行い、事業者の売上を拡大することで地域の雇用を創出することが目的です。実は私もスタート時から、事業推進アドバイザーとして参加しています。
発足以来、「函館さきいかチョコレート」や「函館生パウンドケーキ」「昆布たっぷりのだしパック」などが商品化されてきました。「函館さきいかチョコレート」は、文字通り函館名産のさきいかをチョコレートでコーティングしたユニークな商品ですが、意外なことにハワイでも同様の商品が販売されていました。
そこで、さらに美味しい商品をつくるためにフレークやセサミ、キャラメルなどを用いたところ、甘辛い新感覚スイーツとして人気商品になりました。私自身も後引く味わいが気に入って取引先へのお土産などに利用していますが、今年はイカが不漁のため品薄になっているほどです。
そんな中、私は2015年11月に「シチュー」や「チャウダー」の商品開発を提案しました。発想の原点は、私自身シチューが好きで「美味しいシチューを食べたい」という単純な思いからでしたが、シチューにはホタテやカキなど函館で獲れる海産物がよく合います。これまで、カレーでまちおこしをしている自治体が山ほどあるのに対し、シチューは聞いたことがありませんでした。
これまでのような加工商品だけでなく、飲食店で提供できるメニューがほしいと考えていた協議会もその話に乗り気になりました。さらに調べてみると、アメリカには「ボストンチャウダー」や「マンハッタンチャウダー」という地域別の文化があり、異国情緒漂う函館にはぴったりということから「はこだてチャウダー」の開発が決まりました。
2016年3月からは展開方法などを検討。「メイン食材は魚介類3種類以上とし、最低1種類は道南産を入れる」「出汁(だし)には函館産の昆布を使うとなおよし」など、4つのルールも決めました。地元の人気店「海のダイニングshirokuma」を協力事業者に選定し、試作品が完成。11月に公開セミナーを開催して参加店を募り、2017年2月に7事業者を認定しました。
各事業者が創意工夫を凝らしたオリジナルメニューは、甘エビで出汁をとった旨味たっぷりのスープの色が赤レンガを想像させるもの、マッシュポテトを皿の底に敷いてスープで溶かしながら食べるものなど、バラエティに富んだ一品が揃いました。その中のひとつ、函館空港にあるレストラン「ポルックス」は私もメニューづくりに参加し、香辛料にカレーの風味を加えたヨーロピアンカレーテイストのチャウダーにしました。7店舗あれば食べ比べを楽しめるうえ、まち全体で取り組んでいる本気度も伝わります。
提供開始のXデーは2月22日と決まりました。そこで、私は広報担当者の小林祐樹さんにリリースを書くよう焚きつけました。何しろ国の助成金を受けて行っている事業ですから、失敗はできません(実際には失敗例もたくさんありますが、私のポリシーとしてそんな無責任なことはしたくないので)。
それに、自治体が先導したものの、うまくいかずうやむやになる例も枚挙にいとまがなく、うんざりしている事業者も多いのです。せっかく話に乗ったのに、大して盛り上がらないままいつの間にかプロジェクトが終了していたのでは信用を失うのも無理はないでしょう。そうならないためにも、きちんとPRしてお客さんに来てもらうことが大切です。
15秒で概要を把握させる
とはいえ、私は商品開発のアドバイザーとして参加しているので、リリースづくりなどは小林さんに一任し、配信面で少しだけ手伝う程度にとどめました。そうして完成したのがご覧のリリースです。
(ポイント1)3枚構成になっていますが、1枚目で「はこだてチャウダー」が発売されること、2枚目でコンセプトと目的、3枚目で具体的なメニューがパッと一瞥して分かります。リリースの世界ではよく、「15秒で概要を把握させろ」と言いますが、最近の私は読んで把握するのでなく、パッと見ただけで全体像がおおまかに把握できるリリースが望ましいと思うようになりました ...