株主総会も終了し、新たな中期経営計画の実施に向けて動き出そうとしている。広子は溜まった有休消化も兼ねてリフレッシュ中。しかし東堂は気を緩めず、自らの成長シナリオを考えるためセミナールームへ。

東堂:こんばんは。
大森:あれっ?今日は1人かい?
東堂:そうなんです。広子さんは、株主総会も終わったので、「一区切りついた」と、リフレッシュ休暇をいただいております。
大森:そうか、それはよかった。忙しすぎて体調でも崩したのかと、ちょっと心配したよ。
東堂:広子さんは丈夫ですから、それはないでしょうね。
大森:ははは、株主総会も滞りなく?
東堂:それはもう、おかげさまで。経営陣のプレゼンや商品紹介は熱がこもっていました。株主様のアンケートでも、「取締役開発部長の開発の意図は専門的すぎたが、製品への愛情は伝わった。愛用していることが誇りにも思えた」って。常務も「ご愛用者の生の声は感動的だった」など、経営陣の反応も上々でした。
大森:それはよかったね。経営陣の理解も深まって、いい流れだねえ。
東堂:そうなんです。でも、個人的には改めて広子さんの凄さを思い知らされた気がしました。
大森:ほうほう、どんなところかな?
東堂:準備も行き届いていたし、現場での臨機応変な対応は素敵でした。しかも、対処が確かな知識や裏付けがあってのものだと思わせる内容だったので。
大森:そう評価できる東堂さんも結構すごいけどな。
東堂:ありがとうございます。ところで、今日は広子さんのいない間がチャンスと思い、個人的な成長の方向性、スキルの取得について相談したいと思いまして。
大森:前向きだね。オッケー。広子さんと同じ会社で、IRをやっていく上で、ということでいいよね。
東堂:はい、お願いします。
大森:自分ではどう思っているの?
東堂:そうですね、漠然としているのですが、数字に強くなりたいな、と。
大森:おっ、というと?
東堂:機関投資家へ個別訪問したときや取材を受けたとき、アナリストの方々とは数字の話をする機会が多いんです。皆さんの理解の速さと、その後の激しい議論に感心しました。それからこれは内緒ですけど、広子さんは数字が苦手な印象があるので、私がサポートするという意味でも。
大森:ははは、なるほど。どういう意味で「数字に強い」と言っているのかな?
東堂:「漠然とですが」とお断りをしたのはそこなんです。計算が早い、正確に分析できる、仕訳ができるなどいろいろありますが何が重要なのかよく分からなくて。とりあえず簿記でも始めようかと。
大森:う~ん、簿記知識も必要だけど。とりあえず、IR担当者に求められるスキルを考えてみようか。
IR担当者に必要な能力は?
大森:さて、求められるスキルは何だと思う?
東堂:そうですね、広子さんからはIRパーソンには「スピード感とど根性、そして伝達力」が必要と教えられています。
大森:なるほど、広子さんらしいね。確かにどれも必要だけど、それはIRに限らない気がするな。
東堂:あとは広子さんから「コミュニケーションと調整は任せておけ。その代わり東堂は基礎を磨け。コーポレートストーリーの展開、資料への落とし込みを勉強しろ」と言われたことがあります。
大森:なるほど、広子さんに昔話した求められる基礎スキルは、その2つにITに関する基礎知識を加えたものだったね。
東堂:ということは、必要なのは「数字に強く」ではなく、ストーリーづくりなどの表現力といった文系項目ですね。
大森:いや、そういうわけではないね。「数字に強くなる」は、いい目標だと思うよ。
数字は共通言語になる
大森:ここでいう基礎知識には、ディスクロージャールールやインサイダー規制、会計知識、IRイベント知識といった一連の知識だけでなく、「投資家の観点を知る」ことも挙げられるんだ。投資家の観点を知る上で「数字」は共通言語のひとつ。そこから、さらなるバリューアップのためには、「分析力・評価能力」「コンセプトづくり、表現力」「トーク力、説明力」が必要になる。これらはどれも「数字力」が前提だよ。
東堂:なるほど。では改めてお聞きしますが、大森さんは「数字に強い」とは何だと思われていますか?
大森:難しいよね。数字の「相場観」っていう表現はどうだろう?もちろん株式相場でいう相場観ではなく、数字を聞いたらそれがどんな意味を持つか、標準偏差が頭に浮かぶ、凄さが実感として浮かぶ、という感じかな。
例えば自社業界の市場規模、自社の売上、利益などの数字を理解していて、新製品の売上目標を見たときにそれがどういうインパクトになるか想像がつくとか。
それから、「翻訳力」ということもできるかな。戦略やその結果が数値化できて説明に活かせたり、全体感を俯瞰したり。数字を軸に論理的な思考ができる能力かな。
東堂:なるほど。どうすれば身につきますか? ...