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リスク広報最前線

栃木県那須町の雪崩事故 責任者による会見はなぜ批判された?

浅見隆行(弁護士)

複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

問題の経緯

2017年3月27日

栃木県那須町にて、雪崩により登山講習会に参加していた8人が死亡する事故が発生した。講習会を主催していたのは栃木県高等学校体育連盟(高体連)登山専門部で、事故後の関係者による主な会見は4回。

3月27日、栃木県那須町にて、雪崩により登山講習会に参加していた高校生ら8人が死亡する事故が発生しました。部活動で発生した事故ではありますが、その後の広報対応は、企業での製品事故や工場での火災事故などのケースでも参考になる要素が含まれています。

「謝罪をしたら負ける」という誤解

事故後に開かれた記者会見は主に4件あります。その中で最も注目され、反響が大きかったのは3月29日の会見でした。もちろん、主催責任者である県高体連登山専門部専門委員長が会見したことが注目された一因です。しかし、必要以上に注目された理由は、専門委員長が会見の場で謝罪せず、「こういう事態になり、反省しないといけない」「取り返しのつかないこと」としか述べなかったからです。複数の新聞記事において「明確な謝罪の言葉がなかった」と批判されました。

生命に関わる重大事故が起きたときには、何よりも優先して謝罪しなければなりません。それは企業関連の事故の場合も同様です。本当に申し訳ないという気持ちを伝え、謝罪しているとの姿勢を示さなければ、遺族や社会から「人を死傷させても悪いとも思っていないのだな」と反感を買ってしまうからです。そうなるとメディアも謝罪しない者を「悪者」とし、死傷者とその遺族との対立構造による論調で報じることになります。その後、いかにきちんとした対応をしても、評価されにくいのです。危機管理の初動として失敗ということです。

中には「謝罪をすると法的責任を認めたことになる。その後の訴訟や賠償で不利になる」といった発想に基づいて、かたくなに謝罪しない対応も散見されます。企業の例でいえば、2014年7月に期限切れ鶏肉の使用が発覚した日本マクドナルドのケースが記憶に新しいのではないでしょうか。サラ・カサノバ社長は当時、会見で「悪意を持った数人の従業員がやったこと」「自分たちは被害者である」といった趣旨の発言で、消費者からの反感を買ってしまいました。

また、2011年4月に牛肉のユッケを提供し集団食中毒による死者まで出した「焼肉酒屋えびす」のケースでは、勘坂康弘社長が、初回の記者会見で被害者や遺族への謝罪の言葉もないまま、「私たちか納入した業者に何らかの不備があった。これに関しては真摯にお詫び申し上げる」「法律で生食用でないユッケを出すのを禁止していただきたい」といった趣旨の発言をしたことで、「逆ギレ会見」や「開き直り」などと報じられました ...

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