明確な経営ビジョンが掲げられ、社内に浸透し社員が行動に移す。それが社外から評価され、さらに取り組みが加速していく─優れた企業はこうしたサイクルが機能している。社会価値と事業価値の創造を両立させる社内コミュニケーションのあり方を探る。


サラヤ コミュニケーション本部 広報宣伝室 室長
クリエイティブディレクター
廣岡竜也(ひろおか・たつや)氏
大学卒業後、広告会社を経てサラヤ広告宣伝部へ入社。商品広告の企画・実行、コピーライティングなどを手がけるかたわら環境保全活動に携わり、CSR活動の企画、広報活動も担当。数多くの環境賞を受賞し、企業ブランディングを成功に導く。

味の素 グローバル人事部 人財開発グループ マネージャー
中尾洋三(なかお・ようぞう)氏
マーケティングを担当した後、2003年本社経営企画部で長期経営計画の策定とCSRの導入を担当。2005年CSR部を立ち上げ、CSRマネジメントとコミュニケーションを担当。2009年ガーナ栄養改善プロジェクトに参加。現在グローバル人事部 人財開発グループに所属。
社会課題の解決と事業は一体
編集部:「CSRからCSVへ 企業の存在意義と広報戦略」というテーマで、味の素、サラヤの具体的な取り組みから考えていきます。
廣岡:サラヤは業務用商品を主に扱っているため、当社をご存じの方は少ないかもしれません。「衛生」「環境」「健康」の3つが事業の柱で、CSRとCSVにもかかわってきます。「衛生」は創業の原点です。1952年に創業した当時は戦後間もないころで、日本で最も伝染病が多かった年です。流行する伝染病を防ぐことと事業の結びつきを考えたとき、思いついたのが手洗いでした。日本初の薬用せっけんをつくり、日本中のトイレに緑色のせっけん液と容器をつけて回ったのが当社の原点です。
「環境」については、植物性の「ヤシノミ洗剤」がその一例です。高度経済成長期に洗剤の成分による河川汚染が問題になったことがありました。モノをきれいにするはずの洗剤が環境を汚していたのです。そこで、地球を汚さない洗剤はつくれないか、環境問題に対する答えのひとつとして商品を開発しました。
「健康」分野では食品をつくっています。これまでとまったく異なる事業に進出した背景には、日本が豊かになることで増えた生活習慣病の存在があります。特に増加が著しい糖尿病を防ぎ、患ってしまった方の生活の質を向上させるのに役立つ商品をつくれないかと考えた結果、1990年代に生まれたのが日本初のカロリーゼロの甘味料「ラカントS」という商品です。
その時々に起きた社会問題の解決と事業をつなげることで発展してきた企業であるため、当社ではCSVやCSRを個別に考えていません。また、どれだけ長く活動を続けられるかが重要だと考えているため、CSVとCSR、持続可能性がひとつになって事業を展開しています。
中尾:企業には世の中から求められる、「License to Operate(操業許可ライン)」というレベルがあります。これを超えなければ企業のビジネスは回らず、そのラインを超えることではじめてブランド価値や競争力が生まれます。
CSRも様々な定義がされていますが、味の素が考えているCSRの全体像は、経済的な価値を生み出す、あるいはコンプライアンスを守るという基盤的CSRは当然のことで、「License to Operate」を超えた活動を価値創造型CSRとしています。我々はそれを「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」という考え方(図1)で、今年発表した2017年から2019年までの中期経営計画に組み込んでいます。
ASVの基本的な考え方は、味の素の技術力や味の素らしいやり方で、より経済的価値と社会的価値を大きくすること。ただ、社会的課題に取り組んで価値を生み出すには、社会が求めていることをやらなければインパクトにはなりません ...