事業活動を通じて社会課題の解決を目指す「CSV」を経営方針のひとつに掲げる企業が増えている。社会貢献につながる自社の取り組みを広く発信することは、レピュテーションを高めることにもつながる。広報部門が貢献できる分野といえそうだ。
喫煙率の減少に向け尽力
編集部:今回のテーマはCSVです。Creating Shared Value(共有価値の創造)を略したもので、社会的価値と経済的価値の同時実現を目指す企業戦略を指します。2011年に経営学者のマイケル・E・ポーターが提唱した概念で、CSVを掲げる日本の企業も増えてきました。ローソン、MSDそれぞれの取り組みと広報としてどう発信しているかについてお話しいただきます。
宮﨑:ローソンは皆さんにも日々お使いいただいていると思います。国内に約1万3000店舗あり、加盟店も含めた従業員は約20万人です。1カ月に利用されるお客さまは延べ3億人。年間売上は2兆円になります。
コンビニは皆さんの生活の身近な存在であることから、様々な報道をしていただき、注目を浴びることもあります。2016年1年間では、テレビ番組に467回取り上げてもらい、新聞記事は2303回、ウェブの記事は6339回掲載されました。良いことばかりではありません。過去10年間に発表したリスク案件の数は253回に上ります(図1)。
広報としても様々な情報を発信していますが、想定とは異なることも多くあります。私は広告宣伝を約10年、広報を約20年担当していますが、同じメディア対応でも内容はまったく違うと感じています。理解してもらうためには、何が必要かを計画を立て、反応を見て修正しながら進めています。
山下:宮﨑さんのお話を聞いて、日本で知らない人はほとんどいないローソンさんがうらやましいと思いました。MSDは、医療用医薬品の製造・販売を行っている会社です。医師をはじめ医療従事者の認知度はほぼ100%ですが、一般の方々の間では5%未満。認知度の向上は目下の課題のひとつです。
私自身は広報に約30年取り組んできました。これまで最も情熱を注いできたことのひとつに禁煙啓発があります。「1965年 82.3%」と「2016年 29.7%」。この数字は、日本人男性の喫煙率です(図2)。約50年前は、大半の男性が喫煙していたというのがいまでは信じられないですよね。
私はアメリカの製薬会社ファイザーに2016年まで勤めていて、2001年から広報としてニコチン依存症、禁煙を啓発してきました。2001年当時、男性の喫煙率は40%台。そこから約10年間にわたって、様々な分野で禁煙を推し進めている方々と喫煙率を減らすことに情熱を注いできました。疾患啓発はMSDでも行っています。医療用医薬品を製造・販売して患者の方々に薬を届けていること自体がCSV活動とも考えられますが、広報の役割として人々の生命を救い、生活を改善することをミッションに様々な施策を進めています。
震災でコンビニの価値を認識
編集部:CSVにかかわる両社の取り組みについてご紹介ください。
宮﨑:企業活動そのものが世の役に立つということがCSVの概念ですが、そのためには活動自体が広く伝わっていることが重要です ...