複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

問題の経緯
2017年2月23日
2月23日、愛知製鋼の元専務取締役(66)と元社員(63)が営業秘密の漏えい(不正競争防止法違反)で逮捕された。自社工場内で同社が開発した磁気センサーの製造装置に関する技術情報を他社の従業員に漏らした結果、退職後に自ら設立した会社で不正に利益を得ようとしたもの。逮捕当日には会社として「社内管理体制の一層の強化と再発防止を図っていく」と発表。
愛知製鋼の元専務取締役らが「営業秘密」の開示(漏えい)を理由に不正競争防止法違反で、2月23日に逮捕、3月16日に起訴されました。
企業の情報管理が厳格に求められる現在、同様に情報漏えいを理由にした逮捕・起訴事案が他社でも発生することが予測されます。そのとき、企業は内部統制システムの一貫として求められる「情報の保存・管理に関する体制」を機能させられていたのか、法的責任と社会的責任を問われることになります。
その問いに対して、正面から答える対外発表をしなければなりません。愛知製鋼の事後対応のケースからは、広報部門としてどのような情報発信をすべきであったかを学ぶことができます。
逮捕後の記事に見る「再発防止」宣言
元専務取締役は2013年4月上旬、自社工場内で同社が開発した磁気センサーの製造装置に関する技術情報を他社の従業員に漏らしたとして、不正に利益を得る目的や愛知製鋼に損害を与える目的での「営業秘密」の開示(漏えい)を問われました。取締役退任後の2012年9月に自らが設立した会社で、愛知製鋼の技術情報を無断利用しようとしたと判断されたのです。
逮捕後に日本経済新聞、毎日新聞などに掲載された記事によると、同社は今回の件について以下のような事実を明らかにしたことが読み取れます。
●(漏えいされた技術情報は)他社に先駆けた大切な技術
●磁気センサー技術は当社固有の最先端技術およびノウハウであり、事業における根幹技術であると認識している。より一層の徹底した秘密管理体制を構築し、再発防止を図っていく
●漏えい対象となった技術情報は機密情報として厳重に管理されていた
何気ない、広報部門による公式コメントのように見えます。しかし、実はこの中には法的な観点から重要な要素や、「情報の保存・管理に関する体制」が機能していたことに関する事実が …