新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
グローバルPRのトレンドをウォッチしてきて、時々気づくことがある。アメリカと日本のPR慣行や考え方には大きな隔たりもある一方、共通点も多いということだ。このほど発表された大規模調査から、アメリカのプロフェッショナルのとらえるパブリックリレーションズ(PR)の近未来像が浮かび上がってきた。今回はこの興味深い調査を掘り下げ、アメリカのPRパーソンの本音と意識を探ってみよう。
PRとマーケ、どちらが上位?
この調査は、PRやコミュニケーション・ジャーナリズム研究で名高い、南カリフォルニア大学(USC)の Annenberg Center for Public RelationsがアメリカPR協会(PRSA)やPR業界誌『ホルムズ・レポート』、企業広報幹部の団体であるアーサーペイジ協会などの協力を得て行ったもので、今年3月30日に発表された。800人のPR・マーケティングエグゼクティブを対象にしている。
いくつもの質問が投げかけられているが、筆者にとって興味深かったのは、PRのプロとマーケティングのプロそれぞれに対して、PRとマーケティングの今後の関係性などについて尋ねているところだ。
この「広告vsPR」「マーケティングvsPR」の力関係についての議論は日本でも繰り広げられることがあるが、実はアメリカでも最近よく話題に上っている。というのも、これまで広告とPR、PRとマーケティングなどはそれぞれ独立したドメインだったものが、最近はその境界線が分かりにくくなっているからだ。情報チャネルを横断する形の「統合型コミュニケーション」へのニーズが高まる中で、「どちらが上位概念なのか」「どれが主導権を握るべきなのか」といった議論が交わされることが増えている。
9割が「PRの再定義必要」
図1は、「PRはこれからの5年でどう変わるか」という質問に対する、マーケティング担当、PR会社、企業の広報担当の回答をそれぞれ示したものだ。「PRはマーケティングとより緊密に連携する」という選択肢を選んだ人が最も多く、マーケ担当の61%、PR会社の47%、企業の広報担当の45%がそう回答している。その他の選択肢として用意されたのは、「PRがマーケと比較してより重要な役割を果たす」「マーケより主導的な役割を果たす」「マーケとはまったく異なる機能を果たす」「マーケの一部になる」といったものだ。まるで、「どちらが優位にあるのか」という問いに答えを見出そうとしているかのようだ。
そもそもどちらかが上位概念と決められる性質のものではないし、現にこの問いに対してPRとマーケの担当者ではそれぞれに対照的な考え方を示している。しかし、こうしたアメリカのコミュニケーションプロフェッショナルたちの「turf war(縄張り争い)」的な感覚は日本にも存在しているような気もする。ひとつ明確なのは、どちらか一方あれば事足りるわけではなく、お互いの強みを認め合い、学び合いながら連携していく必要があるということだろう。
そもそもこうしたカテゴリーの間に存在していた壁が消えつつある中で、PRという言葉が具体的に何を指すのかが、分かりにくいという声が多いのも事実だ。この調査では、87%のPR会社関係者が、「PR」という言葉について、「もっと広範なものを包含するよう再定義されるべき」「新しいネーミングが必要」と回答している。
パブリシティの割合低下
「どういったトレンドがPRの未来に影響を与えるのか」(図2)という問いに対しては、(1)デジタルストーリーテリング(2)ソーシャルリスニング(3)社会的意義(4)ビッグデータ(5)行動調査(6)インフルエンサーマーケティング(7)リアルタイムマーケティング(8)ブランデッドコンテンツ(企業がつくるコンテンツ)(9)ライブストリーミング(10)AI(人工知能)(11)VR(仮想現実)(12)フェイクニュース(13)ドナルド・トランプ、という順番だった ...