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企業ブランドを強くする「言葉の力」

コピーライターの役割は、企業の「あるべき姿」を設定すること

平山浩二

企業の経営理念に基づく広報活動には、「伝える」力が求められます。コピーライターが語る、企業ブランドを強くする言葉の役割とは。

凸版印刷「IMAGINE 2020」

社史上の「人間」と向き合う

──平山さんは旭化成や凸版印刷などの企業広告を多数手がけています。長年にわたり、企業のメッセージづくりに寄り添う仕事をされてきました。

企業の方々がコピーライターに望んでいるのは、上手に自分たちの"今"を言い当てることではありません。自分たちの"あるべき姿"を設定することだと考えています。今はまだできていないけれど、その姿に到達できるように努力していくことを約束する、自分自身に厳しくて高いハードルを課すようなものだと思います。

企業理念を言葉で表現し、メッセージを伝えることは非常に難しいことです。企業のステートメントや理念を読んでみると、どれも似たり寄ったりで、まるで「借りてきた着物」を着ているような印象を受けることが多いですよね。

僕のやり方は、まず企業が生まれた背景や社史をできる限り頭に入れます。その上で創業者をはじめ、企業の歴史上に登場する「人間」と向き合うようにします。すると企業のこだわりが浮かび上がってきて、言葉を見つけることができます。話すと簡単なように聞こえるかもしれませんが、時間のかかる難しい作業でもあります。

明確な答えは経営者の中にある

──企業の広報担当者は今、自社のブランディングに強い関心を寄せています。平山さんが感じている、ブランディングの課題とは。

海外市場でのブランディングに関する課題は多いですね。例えば「思うように海外事業のアクセルを踏み込めていない宙ぶらりんの状態なので、グローバル市場におけるコミュニケーション設計をお願いしたい」といった相談もあります。あるいは企業合併や社長交代の際に「何を捨てて、何を残すべきか」を悩んでいる企業の方も多いです。その上で「自分たちにしかできないこと、強みを見つけてほしい」といった相談をいただくケースが目立ちます。

ただし「強み」というのは形がありません。トップから新入社員まで、その企業で働く人々の頭の中にあることなので、当事者の方々とディスカッションしながら探っていきます。各社の広報担当の方とやり取りさせていただくことが多いですが、経営者の方にお話を聞くことも多いです。トップとして、人任せにはしておけないと考えているのでしょう。

現場の方々と議論していてもなかなか埒が明かないとき、思い切って経営層に聞くと即座に答えが明確になることがあります。現場の人たちも、自分も非常に驚きますね。

旭化成「昨日まで世界になかったものを。」

社員が「行動を省みる」言葉を

──平山さんはBtoB企業のお仕事が非常に多いですが、強い「言葉」を生み出すプロセスをぜひ教えてください。

過程を明確に説明するのは難しいですが、「他の企業に似ないようにする」。これは非常に大事です。コンセプトはもちろん、平仮名や漢字の配分、レトリックといった細かい表現も含めて「その会社でなければ言えないような言葉になっているか」ということを重視します。

そういう言葉を見つけるためには、やはり人に会うことが一番早いと思います。トップや現場の方とお話していると、その会社の人格みたいなものがにじみ出てきます。例えば工場に出向いて、現場の方とお話ししてヒントをもらうこともあります。ほんの短い時間であったとしても、20人から30人ぐらいの人には会って話を聞いています。

特に大手企業の場合は「他部署の事業内容が分からない」というケースも少なくありません。広告を見て、初めて自社の事業を知るという社員もいます。当然、一般の人よりも社員の方が商品やサービス、事業に対する関心は高いはずですから、広告で情報を得た社員が発信者となり、ステークホルダーに情報を伝えるという流れも起こります。

BtoB企業の中には、マス広告を出稿したタイミングで事業を詳しく解説した広報ツールを制作するケースもあります。社内報を使って情報共有するという方法もあるとは思いますが、イントラネットのサイトを見に行くのは面倒だと思う人も多い。パンフレットやリーフレットなどの印刷物を社員全員に配布し、手元に置いてもらうようなスタイルが多いですね。印刷物は営業ツールとして活用することもできますから。

BtoB企業の情報発信は2種類あると思うんです。ひとつは、広報が手がけるニュースリリースのような、専門家に刺さるキーワードや切り口が盛り込まれた情報です。

現場の技術者や専門家には響きますが、商品やサービスの購入や取引を決定する経営層は専門家でない場合もあります。すると最終的に、企業の知名度で選ばれることも多くなります。だからこそBtoBであっても、広く関心を集める入り口として理念やメッセージを発信する必要があるのです。

同時に、社員がお客さまに対するメッセージを見たとき「自分たちはその言葉どおりに行動できているだろうか」と省みるような言葉になっていれば、その会社は企業理念に掲げる"あるべき姿"へと変わっていけるはずです。

平山広告事務所 クリエイティブディレクター・コピーライター 平山浩司(ひらやま・こうじ)氏
1963年宮崎県出身。一橋大学社会学部卒業後、電通に入社。営業局を経て、88年からクリエーティブ局へ。以後、コピーライターやクリエーティブ・ディレクターを務める。2017年2月に独立。主な受賞歴は、ADC賞最高賞、新聞協会賞最高賞、読売広告賞、新聞広告電通賞、朝日広告賞最高賞、毎日広告賞最高賞、日経広告賞最高賞など他多数。

    「宣伝会議コピーライター養成講座」とは?

    宣伝会議コピーライター養成講座は日本で最初のコピーライター養成機関として、1957年に開校。今年で60周年を迎える。数多くのトップクリエイターを育成し続け、のべ5万人を超える修了生を輩出。近年では、広告宣伝だけでなく、広報領域も含む、言葉を使ったコミュニケーションのスキルを高める場として、多くのビジネスパーソンが講座を利用している。

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