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なぜ今、企業ブランドが重視されているのか?

全ステークホルダーを見据えた 企業ブランディングの実践へ

井上邦夫(社会情報大学院大学 教授)

投資家や従業員のみならずステークホルダーが全方位に広がるなか、現代における強固なコーポレートブランドの条件とは。ブランディングとレピュテーションの違いとともに考えていきたい。

ブランドが企業の重要な経営課題と認識されるようになって久しい。かつてはブランドといえば主に高級品などの製品ブランドを指すことが多かった。だが、近年は企業のブランド、つまりコーポレートブランドに注目が集まるようになり、これを高めようとする動きが広がっている。人々が製品だけでなく、これを製造・販売する企業についても知りたいと思うようになってきたことなどが背景にあると考えられる。

例えば、経営理念や環境保護への方針など、企業としての経営のあり方や姿勢が、人々の購買行動にも影響を及ぼすようになっているのである。

ソーシャルメディアの爆発的な普及拡大を背景に社会の目は一段と厳しくなり、企業はもはや自社製品のブランドの陰に隠れることが許されなくなっている。こうした環境の変化を受け、企業全体をブランドとして捉え、これをマネジメントしていくコーポレートブランディングの重要性が高まっている。

本稿は、コーポレートブランディングとは何かについて広報コミュニケーションの視点から考察する。アイデンティティ、レピュテーションといった関連する概念について解説し、コーポレートブランディングの具体的な手法について論じる。

「アイデンティティ」の確立

コーポレートブランドとは、端的に言うならば他社と比べたときのその企業の独自性である。目に見えるものではなく、自社を取り巻くステークホルダー(利害関係者)の意識の中に存在するものといえよう。企業の独自性を示す要素には様々なものがある。例えば名前やロゴなど表象的なものから、その企業の社風や理念、哲学といった観念的なものまである。

独自性を構成する様々な要素を集合的にとらえた概念が、アイデンティティである。このアイデンティティこそが、コーポレートブランドの核となるものなのである。Balmer(1995)によると、コーポレートブランディングとは、企業のアイデンティティを戦略的にマネジメントすることである。つまり、コーポレートブランディングとは、アイデンティティのマネジメントにほかならない。

コーポレートブランドを構築するためには、まず自社のアイデンティティを確立するところから始めなければならない。コーポレートブランディングは企業の内から始まるのである。アイデンティティは企業が自ら確立し、ステークホルダーに投影するものであり、コーポレートブランドはこれを受け取ったステークホルダーが自分たちの心の中につくり上げるものである。

理念を社内に浸透させるには

揺るぎのないコーポレートブランドを構築するには、ステークホルダーに対して一貫したメッセージを送る必要があり、そのためにはメッセージの基礎となる強固なアイデンティティが必要となる。

企業のアイデンティティは図1に示された3つのカテゴリー――(1)理念・ビジョン (2)企業文化 (3)シンボリズム――に分類された基本要素から構成される。すべての要素が矛盾のない一貫したつながりとなるように、関連するすべての分野において現状の組織や活動を見直し、必要に応じて修正を加える。そのうえで、これらを動かしていく原動力としてのコミュニケーション戦略を展開するのである。

[図1]アイデンティティの基本要素
*筆者作成

強固なコーポレートブランドは、企業自身がアイデンティティを確立し、ステークホルダーがこれを正しく認知することによって築かれる。まず明確な理念・ビジョンを構築し、これを社員一人ひとりが実践することで社内に深く浸透させ、そこから社外に向けてあふれ出させるようにメッセージとして発信していくことがカギとなるのである。

こうしたプロセスを実行するうえで重要となるのが、社内コミュニケーションである。高いブランド力を保持している企業には例外なく、企業理念やビジョンを浸透させるための強力な社内コミュニケーションプログラムが存在する。そして、そのプログラムを実施するための、マネジメントによる確固たるコミットメントも存在するのである。

効果的な社内コミュニケーションを展開することによってアイデンティティの浸透を図り、そのうえで、社員が企業と自らの仕事に誇りをもって社会に語ることができる環境を整えるのである。

米国のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、こうした社内コミュニケーションを推進し、基本理念の浸透に注力して成功している企業のひとつである。同社は社外よりもまず社内のブランディングを確立するため、トップマネジメント自らが社員に語りかけ、様々なツールを使ってJ&Jの基本理念である「我が信条」(Our Credo=クレドー)の浸透を図っている ...

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