複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

事故の経緯
2月16日 午前9時ごろ
埼玉県三芳町にあるアスクルの物流センターで火災事故が発生し、鎮火が発表されたのは28日午後5時。首都圏の一部に配送ができなくなったほか、従業員ら2名の人的被害、倉庫の延焼と在庫の消失・損壊、近隣住民に避難勧告が出るなどの影響が生じた。
2月16日、アスクルの物流センターで火災事故が発生しました。3月7日までにアスクルが出したプレスリリースは、IRの開示情報を含め16本。火災事故という重大な危機に直面したときに、タイムリーかつ的確な内容の情報を発信できた広報対応が特徴的でした。
また、広報の内容からは、内部統制システムとして法律上要求されている「損失の危機管理体制」が十分に機能していることも読み取ることができました。他社が危機管理広報として学べるところがいくつもあるように思います。
4時間以内の報道発表で迅速な初動
アスクルは、火災事故発生当日12時40分に第一報のリリースを発信しています。この時点の開示内容は火災事故の発生日時と場所だけで、発生原因および経過、被害の状況、業績への影響については「現在調査中であり、判明次第お知らせいたします」との内容に留まりました。
もし、これが自分の会社で起きたとしたら、どうでしょうか。広報担当者としては、これだけでは発信する情報内容が不十分ではないかと躊躇してしまうかもしれません。しかし、第一報はこの程度の内容でも構わないのです。事故が発生しているという事実を公表したという姿勢を見せるだけで、「この会社は情報を隠すつもりはないな」と投資家、近隣住民、世間一般から信頼してもらえるからです。
しかも、この第一報のリリースでは「判明次第お知らせいたします」とも記載し、「情報を隠すつもりはありません」と宣言しています。当時のインターネット掲示板やSNSなどを見ても、アスクルの情報開示の姿勢に批判的な投稿は目立ちませんでした。…