ネット上にはネガティブな投稿が多い。広報の仕事に関わる皆さんなら、自社や商品にまつわるネガティブ発言に頭を悩ませたことが1度や2度はあるだろう。世界中では、実に2万6000以上ものネガティブ発言が、2秒ごとに投稿されるという。今回のコラムでは、そんな現実をちょっとでも変えようとした、シボレー(米ゼネラルモーターズの自動車ブランド)の最新キャンペーンを紹介しよう。
「Find New Roads」がシボレーのブランドメッセージ。前に進むこと、新しい可能性を信じることがそのDNAだ。これを世界に訴求すべく、シボレーが今回手を組んだのがIBMのシステム「ワトソン」。ワトソンの言語解析能力を使い、「グローバル・ポジティビティ・システム」と呼ばれるアプリが開発された。TwitterやFacebookのアカウントを入力するだけで、数秒もあればユーザーのSNS投稿がどれだけポジティブかスコア化される。
それだけではなく、自身の「最もポジティブな投稿」「最もネガティブな投稿」も分かるし、「最も使われた5つのポジティブ・ワード」も分かる。おまけに、積極性や性格まで分析し、「新しい言語を勉強してみてはどうでしょう」といった提案までしてくれる。この「優れモノ」システムを中心に企画されたのが、「Fueling Possibilities(可能性を満タンに)」キャンペーンだ。
世界中のガソリンスタンドに、このシステムを搭載した給油機が設置された。スタンドを訪れたドライバーは、自分の「ポジティブ度」がガソリンにかわることを知らされる。それなら、とTwitterやFacebookのSNSアカウントを入力すると、ものの数秒で「ポジティブスコア」が表示され、それに応じて給油できるガソリン量も分かるしくみ。「120ポジティブで47リットル」といった具合だ。
さらに、シボレーのブランドメッセージにつながるしかけが用意されている。ドライバーのポジティブ投稿から、その人が前向きに取り組んでいることは何かを分析。それに役立つであろう「行き先」まで示してくれるのだ。
例えば写真を勉強中なら、「35キロ先に、とても素敵な景色を撮れる場所があります」。プロのコックになりたい人には、「6キロ先に、参考になる有名シェフのお店があります」という感じ。人生を切り拓く可能性があるという、まさに「Find New Roads」が体現されている。
このグローバルキャンペーンは、2016年9月13日の「International Positive Thinking Day」に合わせてIBMワトソンとの共同発表で開始。世界10カ国で展開され多くのメディア報道や口コミに波及した。
ちなみに、このキャンペーンのポジネガ分析は「75%ポジティブ」だったそうだ。世の中の問題意識とブランドのメッセージを、ユニークな施策でつなげた好例だろう。たまにはネガティブ投稿したくなるときもありますが、広報パーソンはポジティブに。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー/戦略PRプランナー。主な著書に『最新 戦略PR 入門編/実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、共著に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |