広報やPRの仕事は長時間労働になりがちなハードな仕事。近頃はやっと日本でも「長時間労働を良しとしない」空気ができつつあるのは非常に良いことですね。従業員の労働環境改善や健康問題には、企業もこれまで以上に力を入れ始めた。
新しい制度や仕組みを導入する職場も増えているけれど、ありがちなのが「導入はしたけど社員が活用しない」というケースだ。告知の仕方の問題もあるけれど、社員という集団のビヘイビアチェンジ(行動変容)を促すわけだから、ここでもPRの出番となる。今回は、重要性が増しているインターナルコミュニケーションをテーマに、米エンジニアリング企業AECOM社の成功例をお届けしよう。
大型買収によって従業員が1万人から4万人に急増したAECOMには大きな悩みがあった。従業員のヘルスケアコスト負担だ。AECOMではそれまですべてのコストを会社が負担してきたが、さすがに4万人となると面倒を見るのは大変だ。かといって社員の健康維持は重要事項で、そのポリシーを変えたくもない。
一方で、AECOMでは多様なヘルスケアプログラム―健康維持や予防につながるもの―を社員に提供していたが、社員数が増えたこともあってもうひとつ活用が進んでいない。こうなると結論はひとつ。全従業員の健康意識を上げてプログラムの利用を促進させ、結果としてヘルスケアコストの負担を減らすことだ。
AECOMは外部のPRエージェンシーと協力して、大々的な社内キャンペーンを企画・実行することにした。問題はどうやって社員の参画意識を高めるか。単純にプログラムを社内広報したところで成果が見込めないことは、これまでの経験上分かっていた。そこで着目したのが、従業員のその先―家族やパートナー、友人などの「社員が愛する誰か」だ。
こうして、「Who’s Your Reason?(誰のために?)」をテーマに、社員の家族も巻き込んだキャンペーンが展開された。家族を対象にした健康セミナーが開催され、感染症の予防プログラムに参加した子どもにはアワード(賞)が与えられた。キャンペーンの「社内アンバサダー」が選定され、彼らが同僚に働きかけたことも従業員の参加を大いに促した。
このキャンペーンは、従業員の家族単位での健康意識を高めることに成功し、結果として様々なヘルスケアプログラムの認知活用を促進した。全従業員の実に90%以上がプログラムの重要性を理解し、64%がエクササイズを増やし、49%が体重を減らすことを宣言し、39%がストレスマネジメントを始めた。まさに、「行動変容」が起こったというわけだ。
社内広報というと「知らしめる」ことが目的であるかのように感じてしまいがちだが、社員の行動を変えてこそ真のインターナルコミュニケーション。健康第一で今年もがんばっていきましょう。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー/戦略PRプランナー。主な著書に『最新 戦略PR 入門編/実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、共著に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |