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REPORT

日本広報学会、北海道大学で全国大会 「新時代の国際広報」テーマに議論

イチョウ並木が色づく北海道大学で開かれた日本広報学会の研究発表全国大会。「新時代の国際広報」を統一論題に、観光やインバウンド需要開拓など北海道ならではのテーマにも取り組んだ。

日本広報学会の第22回研究発表全国大会が、10月29日と30日、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院(札幌市北区)で開かれた。大会の統一論題は「新時代の国際広報」。国際広報や観光地PR、CSRなどをテーマにしたシンポジウムが行われ、会員を中心に200人超が参加した。

インバウンド需要の拡大や2020年東京オリンピックの開催などを背景に、一部のグローバル企業にとどまらず中小企業や官公庁・公的機関、地方自治体などにとっても国際広報の重要性が増してきている。また、対日投資の低調などを背景に、積極的な国外への発信が求められていることも今回のテーマ設定の背景にあるという。

大会のメイン会場となった北海道大学情報教育館。札幌駅から徒歩圏で、地域や観光客に開かれていることも北大の特徴だ。

広報の取り組みを国際比較

「統一論題ディスカッション・セッション」(10月29日)ではライプチヒ大学のアンスガール・ゼルファス教授(左から3人目)のほか4つの研究発表が行われ、「新時代の国際広報」をめぐって議論した。

メインの「統一論題ディスカッション・セッション」では、ドイツ・ライプチヒ大学のアンスガール・ゼルファス教授が実施している広報・コミュニケーション活動の国際比較について解説。さらに「デスティネーションPRの日米比較」「第二次安倍政権下の官邸国際広報」など統一論題に合わせた4つのテーマについて、広報学会の会員がそれぞれ発表した。「新時代の国際広報」を多方面から検証するディスカッサント方式が用いられた。

ゼルファス教授は、ヨーロッパのほか中南米とアジア太平洋地域でそれぞれ広報・コミュニケーション活動の実態や意識について定期的に調査している。それによると、アジアは他地域に比べて印刷媒体を重視する傾向にあるという。重要視している広報チャネルを聞いたところ、「日本は新聞、雑誌を通じたメディアリレーションズを重視する傾向にある。一方フィリピンやタイではモバイル上のコミュニケーションを重視している」(ゼルファス教授)。アジア太平洋各国の中で、戦略的課題として重視していることについては、中国、インド、シンガポール、ニュージーランドなど多くの国で「デジタルの進化とソーシャルウェブへの対応」を最重要に掲げたのに対し、日本は「事業戦略とコミュニケーションの連動」、韓国は「信頼性の構築と維持」を最も重視していた。意識調査の国際比較にあたって、ゼルファス教授は「ブラジルは楽観的、スイスやドイツは悲観的な回答になりやすい」など今後の課題も指摘しつつ、日本の学界や実務家に調査への協力を呼びかけた。

口頭発表のほか、会場内にはポスター発表の場も設置。中国などからの留学生による発表も多く見られた。

北海道ならではの広報確立を

「地方からのデスティネーションPR」と題した記念シンポジウム(10月30日)。観光をめぐる期待とPR戦略の課題について話し合った。

「地方からのデスティネーションPR」と題した記念シンポジウムでは、北海道で観光コンテンツ開発やインバウンド施策に取り組むJTB北海道法人事業部の原田亜紀氏、福岡を拠点に、自治体などに向け地域活性の支援を手がけるバリュー・クリエーション・サービス代表取締役の佐藤真一氏、小樽商科大学ビジネススクール准教授の内田純一氏が北海道の観光PRや地域活性化をめぐって議論を交わした。

佐藤氏は、「国内客による観光市場は減少傾向。特に若者は、いわゆる『観光』はしたくない。どんなメッセージを発信して取り込んでいくかが重要」と指摘。瀬戸内海の島々を活性化させるために、メディアのパブリシティを仕込みつつ地域を巻き込んでいった取り組みを紹介した。

原田氏は、利尻島や礼文島を抱える北宗谷地区と、札幌市近郊の定山渓温泉での取り組みを披露。「お客さま目線によるストーリーで発信」「宣伝と広報の違いをしっかり認識すべき。広報をないがしろにしないこと」と述べた。内田氏は、富良野地区のご当地グルメとして定着した「オムカレー」や温泉街活性化イベント「はこだて湯の川オンパク」などの事例を紹介。「宣伝と広報もそうだが、ブランディングとマーケティングの違いも認識しておかなければならない」と指摘した。

佐藤氏は自らの経験から、「北海道は都市間移動に予想以上に時間がかかるなど、個人旅行客にとって難易度が高い。北海道スタイルの広報をぜひつくってほしい」と期待を寄せた。

同日には、北海道コカ・コーラボトリングやKDDI北海道支社などによる地域CSR活動を紹介するシンポジウムも開かれた。

海外から投資を呼び込むには

札幌のホテルで大会前日に開かれたプレシンポジウム「地方創生と国際化」(10月28日)。食材や観光資源に恵まれた北海道の魅力をいかに海外にアピールし、人や投資を引き寄せるか。これからの時代の「国際化」について意見を交わした。

大会前日には札幌市内のホテルでプレシンポジウム「地方創生と国際化」が広報学会と北大の共催で開かれた。帯広市長の米沢則寿氏が基調講演を行い、食と農業を通じた十勝地区の価値創造に向けた取り組みを紹介した。海外勤務も含めた民間企業での経験を活かし、農産品のブランド化や輸出促進、人材育成を進めているという。

パネルディスカッションでは、海外からの投資や観光客をいかに呼び込むかをテーマにパネリスト6人が意見を出し合った。インバウンドにおいて先進地域とされるニセコ町の片山健也町長は、観光協会の株式会社化やインターナショナルスクールの開設などの取り組みを紹介。外国企業に対応できる金融機関の不足や弁護士なども必要と指摘した。米ボストンに本社を置くステート・ストリート信託銀行は、東京に次ぐ拠点を福岡に開設した。アジアへの地の利や大学が多いことなどが理由だという。同社の高橋秀行会長は「子どもの教育が日本語でしか受けられない状況は、外国人に来てもらう上で課題」と述べた。

2017年の大会は11月18日と19日、龍谷大学深草キャンパス(京都市)で開かれる。

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