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2017年版 危機管理広報マニュアル

命の行方を左右する!自治体間で格差広がる「災害広報」の現状

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

今や想定しうるウェブリスクは、不祥事や失言による「炎上」だけではない。災害時の情報発信の格差によって、生命の危険にさらされる可能性もあるのだ。

「災害対策モード」に県境があってはならない!
鬼怒川決壊で甚大な被害が出た、2015年9月の東日本豪雨災害。茨城県や常総市のサイトがすぐさま災害対策モードに切り替わった一方で、栃木県では通常モードのままだった(2015年12月号本誌「ウェブリスク24時」から再掲)。

東日本大震災、広島の土砂災害、鬼怒川が決壊した東日本豪雨災害、そして2016年に発生した熊本地震、台風10号による豪雨災害、鳥取地震─大規模な被害をもたらす自然災害が起きたとき、多くの人が情報を求めてネットを利用するようになった。ところが主な情報発信源となる自治体間で、ネット広報の充実度に格差が生じているのが現状だ。

隣接する県や市町村でも、災害時にホームページの情報をどんどん更新していく自治体もあれば、まったく更新しない自治体もある。Twitterを積極的に活用し、被害状況や避難所などの情報を継続して発信している自治体もあれば、そもそもTwitterを使っていない自治体もある。見方を変えれば、居住している自治体によって得られる情報が異なるということを意味しており、いざというときに命を守るために得られる情報に差が生まれていると考えれば看過できない。

ネット対策があいまいな防災計画

なぜこのような格差が生まれているのか。それは、災害に関する広報のあり方、とりわけネット広報に基準がないためである。災害時の活動は毎年、各自治体で更新されている防災計画にまとめられており、避難所などの備えについては土嚢の数や備蓄食料など細かく記載されていることが多い。一方で、広報についてはNHKや地元ラジオ局と連携する、そしてまたネットを活用する、という大まかな内容しか書かれていないことが多いのだ。そのため相対的にネット広報は重要視されておらず、詳しい職員がいるかどうかなど属人的な要因によって差が生まれやすい状態になっている。

災害には、防災・発災・復旧・復興という段階があるが、ネット広報が最も大きな差を生むのは発災直後の段階だ。それはつまり、個人がそれぞれに身を守るための迅速な行動を求められる重要なタイミングでもある。そこで積極的に発信活動ができるかどうかは、防災の段階、つまり平時の取り組みを見ればはっきりと分かる。平時に積極的にネット発信できない自治体に、非常時の活用は期待できない。

Twitterの普及率は関係ない

発災時の最も有効な通信手段のひとつがTwitterだが、自治体によって、あるいは地域によって、その活用にはまだ大きな差がある。取り組みが遅れている自治体は「そもそもTwitterを使っている人が少ないから」などと理由を挙げているが、全員が使っている必要はない。非常時に命を守るための行動を促すのは近所の人かもしれないし、離れて暮らす家族や知人かもしれない。ひとつでも多くの方法で注意を喚起し、速やかに行動を促せるよう備えたいところだ。

こうした自治体間の格差をなくすには、日ごろのネット広報を強化するよう地元自治体に働きかけ、防災計画にネット広報のあり方を盛り込んでいくことである。加えて市民一人ひとりが日ごろから地元自治体の動きをウォッチしようとする意識も必要だ。

ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)
国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。米コロンビア大学院(国際広報)卒。日本パブリックリレーションズ協会前理事。中小企業から国会まで幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。近刊は『頭のいい一言「すぐ言える」コツ』(三笠書房)ほか著書多数。本誌「ウェブリスク24時」連載中。

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