いま、広報担当者にマーケティングの視点が求められています。今回は広報活動における競合との差別化のためのフレームワークを考えます。
週に3日、東北芸術工科大学の企画構想学科で教鞭をとっている。残り5日は、東京で企業のPRやブランドコンサルティングの仕事に携わっている(足すと8日になっているが……)。大学や東京でPRやマーケティング分野の講義や商談をすると、とても「悲しい」気持ちになることがある。この「悲しくなる」話について今回は書きたい。
大学で教えていて「悲しく」なるとき
マーケティングを学ぶ学生は少し「頭でっかち」くらいでよい。実務経験がないのだから当然だ。一方、 ゼミなどではなるべく「実践(風)」にしようと教員たちは苦労する。もっとも、「実践(風)」な指導をするには最低限の「基礎」は必要だ。問題はどのレベルを「基礎」とみなすかだ。
私は大学時代、経済学部に所属していた。「ミクロ経済」の「基礎」を学んだ。その上で当時の新しい事例などをゼミなどで学んだ。もしも自分が今マーケティングを大学で学ぶのであれば、まずフィリップ・コトラーやマイケル・E・ポーターなどの「誰もが知っている」概念をかじった上で、「実践(風)」のこと(例えばフレームワークや企業事例など)を学ぶだろう。
そういう思いもあって「フレームワーク」の「さわり」を教えると、中には「もっと実践(風)の企業コラボレーションなどをしたい」と思う学生も出てくる。その一方で、逆に教えた「フレームワーク」をやたらと使いたがる学生も出てくる。以降に提出するレポートに全部「SWOT分析」(図1)を入れていたりする(笑)。こうした「フレーム」の活用自体は悪くないが、1度や2度聞きかじっただけで何でもかんでも使うので、内容が「薄っぺらい」のだ。市場分析、競合分析、ポジショニングを分析する際のフレームワークを、ちょっと聞きかじって「雰囲気」だけで使うのは危険だ。自分ではしっかり「分析」できたつもりでも、実際は抜け漏れが多い。
コンサルをしていて「悲しく」なるとき
大変おこがましい物言いになるが、クライアント側にも似たような問題点をたまに感じる。特に広報部門の方たちと話をしていると、「自社を『ワールドビジネスサテライト』で取り上げてほしい」「社長を『カンブリア宮殿』に出演させたい」といった、ピンポイントでの広報の目的については具体的にイメージを持っているが、一方「自社の競合企業はどこですか?」「競合はどういう広報戦略で市場に臨んでいますか?」などとうかがうと、「うちは独自路線なので競合がない」と言われたりすることもある。
自社の商品を買わない顧客は、必ず別の代替品を買っていたりする。少なくとも「パブリシティ」の視点でいうと、自社が「掲載したい」と思ったメディアの枠に他社の商品が紹介されている場合、その商品自体は競合しなくとも「メディア枠」を獲得する上では「競合」にあたる。広報担当者はこういう視点を持つべきだと思う。では「競合」をも含む広報戦略上の「ポジショニング」について考えてみたい。
ポジショニングとは何か?
自社の商品(ブランド)と競合する他社の製品(ブランド)について、市場内でどのような「位置づけ」がなされているか。その「位置づけ」のことを「ポジショニング」と呼ぶ(図2)。競合他社を意識しつつ、市場の中に相対的に自社が有利となる独自の「ポジション」を構築することで、他社の商品との「差別化」を図ることができる。広報担当者は、自社のブランドや商品のPR戦略を考える上で自社商品のポジショニングを意識しなくてはならないが、「ポジショニング」を考える際には …