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元報道記者の弁護士が提言 メディアの動きを先読みする広報になる!

まさかのオフレコ破り!記者との約束はどこまで有効か

鈴木悠介 (西村あさひ法律事務所・元TBSテレビ記者)

テレビ局報道記者出身の弁護士が法務とメディア、相互の視点から特に不祥事発生時の取材対応の問題点と解決策を提言します。

A社の広報担当者は、なじみの新聞記者から「A社とB社との業務提携解消について、社長から話を聞きたい」と依頼を受けて、社長への単独インタビューを設定しました。

インタビュー当日、社長は「アジア市場に強みを持つB社との業務提携は当社に大きなシナジーをもたらした。ただ今後、当社としては南米市場への展開を考えており、B社との業務提携はその役目を終えたと考える」などと答えていましたが、記者はその答えに納得がいかない様子。「本当の理由は何ですか」と食い下がってきました。

社長は記者のしつこさに根負けした様子で「仕方ない、オフレコで頼むよ。実は……」と言って、新興国XでのA社・B社の共同プロジェクトにおいて、B社によるX政府高官への贈賄疑惑が生じたため、B社との業務提携を見直す方向となったことを明かしました。

インタビュー終了後、広報担当者は新聞記者との間で「贈賄疑惑の話は記事にしない」ことを再度確認しました。ところが、次の日の朝刊には「B社、X政府高官に贈賄か」との記事が載ってしまいました。A社としては、オフレコの約束を破った記者に対して損害賠償の請求など、何らかの対抗手段を取りうるでしょうか。

そもそも、オフレコ取材とはいえ、会社の重要な情報を記者に漏らしてしまうA社の社長の対応には問題があると言わざるを得ません。ただ実際には、オフレコ取材となるとついつい気が緩み、余計なことまで喋ってしまう取材対象者が多いのも事実です。

こうした様子を見ると、記者と取材対象者との間にはオフレコ取材に対して考え方の違いがあるように感じます。今回は元記者として、記者のオフレコ取材に対する考え方とともに、弁護士として「オフレコ破り」に対して、会社が何らかの法的手段を取りうるのかという点をお話しします。

図1 「オフレコ取材」の陥りがちな失敗

新聞記者:「納得いきません。業務提携解消の本当の理由は何ですか?」
A社社長:「仕方ない、オフレコで頼むよ。実は……」
A社広報:「オフレコの話は記事にしない」と記者に念押しで確認したが……

A社の社長は食い下がる記者に対し、つい「X政府高官への贈賄疑惑が生じたため、B社との業務提携を見直す方向となった」と明かしてしまいました。

オフレコに対する記者の行動原理とは

日本新聞協会は、オフレコ(off the record)について、「ニュースソース(取材源)側と取材記者側が相互に確認し、納得したうえで、外部に漏らさないことなど、一定の条件のもとに情報の提供を受ける取材方法」と定義しています。その上で、「その約束には破られてはならない道義的責任がある」との見解を示しています。私個人の印象ではありますが、このようなオフレコ取材が成立するのは、記者の方から「書かないですから、教えてください」と言って申し出るパターンよりも、取材対象者の方から「ここから先はオフレコで頼むよ」などと言って、記者が「分かりました」と応じるパターンの方が多いような気がします。

記者にとって「オフレコ取材」は記事にしない前提で取材対象者に本音や背景事情を語ってもらうことで、短絡的な素人判断に陥ってしまうのを避け、より深い分析を伴った記事の執筆につなげられるというメリットがあります。一方で、オフレコ取材は報道する・しないの判断を取材対象者に委ねるという点で、独立性のある報道が妨げられるというデメリットもあり、多用すべき取材手法ではないとの指摘もあります。

このようにオフレコ取材の是非については議論があるものの、記者は一度オフレコ取材とすることを約束したのであれば、基本的にはその約束を守ります。ただ、あくまでも「基本的には」守られるだけで、破られる場合も当然あります。

では、どのような場合に「オフレコ破り」は起きるのでしょうか。抽象的な言い方をすれば、記者が「オフレコ破り」によって被る不利益を考慮しても、それでも報道する意義があると考えた場合には「オフレコ破り」が起こります。具体的には、図2のような点を考慮することになります。今後も継続的に取材できる関係が不可欠であったり、情報提供を渋る取材対象者に対して記者からオフレコ取材を持ちかけて情報を引き出したりする場合には「オフレコ破り」には慎重になるでしょう。なお、こうしたオフレコ発言は各社の記者が集まっている場で行われることも多く、他社もオフレコ破りに追随するかという点も(その是非はさておき)「オフレコ破り」に踏み切るかどうかを考慮する要素になります。

こうした判断は ...

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