新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
ゼブラは私も学生時代、蛍光マーカーで大変お世話になった愛着のある筆記具メーカーです。暗記ものには欠かせないアイテムで、読者の中にも愛用していた方は多いのではないでしょうか。今回取り上げるのは、同じく代表的な商品である油性マーカーの「ハイマッキー」。2016年に発売から40周年を記念して製造販売した復刻版のリリースを検証します。
当時の商品を忠実に再現
ハイマッキーは1976年に発売され、日本だけでなくアメリカやアジアなどで累計8億本を販売してきたベストセラー商品。おそらくどこの家庭にも1本はあるのではないでしょうか。2015年12月にせっかく40周年なのだからと営業企画部から企画が発進したのですが、発売当初の企画書など、社内に資料が何も残っていないという問題が。「会社の倉庫に発売時の現物が1本だけ残っていて、それをもとにデザイナーが目視でデザインを再現しました」と営業業務企画部 広報室室長の池田智雄さんが裏話を教えてくれました。
当時は寺西化学の「マジックインキ」(1953年発売)の独占市場でしたので、太字と細字が1本で使い分けでき、キャップを尻に差し込むことで紛失やペン先の乾燥を防げるなど、画期的な工夫を施しました。現行商品との最大の違いはボディラベルの矢印の縁に銀色を使っていることです。
池田さんは聞き取り調査をしようと、40年前にハイマッキーを企画し、数年前に退職した元社員に会いに行きました。当時は思いついた商品はいくつか試作品をつくったらすぐに商品化していたそうで、今とはモノづくりのあり方が大きく異なっていました。銀色のラベルは既存の商品とは異なる品質の高さを示しており、商品に対するプライドの表れとのこと。しかしコストが見合わず途中から白に変わったため、銀ラベルを採用していたのは約1年間だけ。幻の商品なのです。「開発者も現物を持っておらず、復刻版が出ると聞いてとても喜んでいました」。
当時は製品に対する注意書きが今ほど多くなく、POSシステムに対応したJANコードもありませんでした。復刻版ではレトロ感を出すために、忠実に再現。ただし注意書きは不可欠であるため、商品を包むビニール袋に印刷することで解消しました。
3月14日の発売に向け、2月26日にリリースを配信。記者クラブへの投函と郵送を中心に、約100通配信しました。同社が広報に力を入れ始めたのは池田さんが担当に就いた3年前からで、書籍などで基礎から学んで一からメディアリストをつくり、案件によって100~300通配信しています。「ハイマッキー復刻版」は『読売新聞』の「ロングセラーの理由」に大きく取り上げられたほか、『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス)、『日経MJ』などにも掲載されました。文具店でも通常は奥の方に並べられるのが、店頭の前面で展開されて売れ行きも好調。中年世代からは「自分と同い年」、若者からは「レトロな感じがしていい」などの声が寄せられているそうです。
既存商品にも再注目の好機
リリースは全2枚で、非常によくまとまっています。最近、取材に行くと私が担当する講座の受講生によく会うのですが、池田さんも3年前に広報担当になった際にニュースリリース作成講座を受講してくれた一人です。
タイトルや本文で強く押しているように、(ポイント)「復刻版」はPRにとっても有効なコンテンツです。復刻版ということはすなわち誰もが知っている著名な商品で、メディア内でも企画が通りやすいのです。時代とともに商品は変化しており、歴史をたどると興味深い読み物になります。復刻版はデザインに独特のレトロ感があり、限定販売でもあるため「手に入れたい」というマニア心も刺激します。こうした理由から復刻版は …