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匿名記者が明かす残念な広報対応

記者を「指名」したがる広報のエゴ 長年の信頼関係が崩れた1本の電話

記者と広報は、なぜすれ違う?​第一線で活躍するメディアの記者に​本音で語ってもらいました。

IT系 記者兼デスク​ Sさん(男性)

IT系媒体に20年以上関わってきた記者兼デスク。雑誌とウェブサイト双方で、記事執筆と編集を経験してきた。記者会見は極力出席するのがモットーだが、拙い進行を見るとイラッとしつつ、顔には出さずに帰る。昔に比べると現場に出る機会は減ってきたが、質問の切れ味は衰えていないつもり……。

「来週、米国からP社のCEOが来日するので取材しませんか─」。海外新興企業P社の​広報のお手伝いをしているQさんからこんな誘いの電話がかかってきた。こうした突然のインタビュー依頼はよくあることだが、この時は後でいろいろこじれることになる。

調整した代理の記者への不満

Qさんは以前、筆者がよく取材をしていたR社の広報担当だった。無理を言って、なかなか取れないR社の取材を何度か入れてくれた恩義もあり、QさんがR社を離れた後も継続してお付き合いさせていただいていた。筆者に限らず記者というものは、来日したキーパーソンの単独取材をオファーされると、忙しいからと無下に断ったりはしないものだ。取材当時は聞いたことがなかった会社が大きく成長し、取材が後になってプラスに働いた経験が何度かある。そうした「記者ならではの思考」を知った上で、自分の知り合いの記者を使い分け、ブッキングをしてくるQさんのような広報担当者も実在する。

​ただしもちろん、すべての取材依頼を受けられるとは限らない。依頼があった時点で取材の価値をざっくり見積もり、広報担当とのやり取りで自分の媒体に記事を載せる意義を感じられない場合はお断りする場合もある。言い方を変えれば、広報担当に取材の意義を納得させてもらえれば、こ​ちらとしても対応を考えるということだ。

依頼されたP社については、指定された時間に予定が入っていたことと、P社の事業がやや自分が得意とする分野とは離れていることが見えてきた。まあ、微妙な取材先ということだ。とはいえほかの媒体に話を持っていかれるのも惜しいのと、インタビューを設定したいQさんの意向を汲んで、同じ編集部のX記者に代わりに行ってもらうことにした。当日、取材に行ってQさんとも話してきたとX記者から聞いた時点で、私は自分の役割を果たせたとひとまず安心していた。ところがその翌日、Qさんから「なんでXさんのような記者に来させたのですか」という電話が。​

X記者は独特のインタフェースを持っているが、書く記事はしっかりしている。しかしその独特のインタフェースや取材現場でのやり取りなどで、Qさんに拙いところが見えたようなのだ。そのときは意見だけ聞いて収めたが、紹介した身としてはおもしろくない。先方が想定した取材にならなかったことは推測できたが、その場にいない自分がかかわる問題ではないだろう。実際、記事が公開された後に電話がかかってこなかったので、記事の品質には不満はなかったと思われる。

振り返ると筆者にも、相手の期待していたものと合致しないインタビューになった経験がある。このときは時間が限られるなか、相手が言いたいことと自分が聞きたいことがかみ合わず、見出しをつくるのに苦労するインタビューになってしまった。ただ、こうした取材のパフォーマンスで記者の能力を値踏みされるのは嬉しくない。もちろんアウトプットに不満があれば、真摯にその指摘は受け入れるつもりだが。それまで良好だったQさんと筆者の関係は、この一件をきっかけにフェードアウト。Qさんがこの業界を離れたかどうかは定かではない。

「人数合わせかも」と感じる発表会

「残念な対応」といえばもうひとつ思い浮かべるエピソードがある。筆者は国内外の企業を問わず、発表会に呼ばれることがよくある。現場で撮ったキーパーソンの顔写真を付けて発表のポイントをまとめればウェブニュースくらいにはなり、参加を依頼した側も取材に行った側も納得できる記事が一丁上がりだ。

しかし、こうした会見型のニュースは昔に比べて読者の関心を集められなくなっている。知名度の高い会社か驚きのある発表内容でないと、様々なニュースが飛び交うネットに埋もれ、読者に選んで読んでもらえなくなってきた。そうなると、メディアとしても会見があれば何でも行くという姿勢は改めざるを得ない。事前に送られた内容、想定されるニュース価値を見積もって、参加する発表会を選別するということだ。

発表する側からすれば、記者会見には多くの記者が集まることを期待しているだろう。記事化するかどうかの判断は編集部に委ねるとしても、参加人数が多ければ記事化される確率も高くなる。もちろん登壇者は、どうせ会見をするなら多くの記者の前で話したいだろう。幹部に近い筋から広報担当者にかかるプレッシャーも想像できる。

そんなことを考えている筆者は「もしかして今日は人数合わせで呼ばれたかも」と感じる会見にたまに出くわす。一度もコンタクトしたことがない会社から、媒体の編集内容からやや外れたテーマの発表会に声がかかったときなどだ。ほかに予​定がなければ新しい発見を期待して参加するようにしているが、こういう場合はえてして広報から名刺交換を求められることもなく、会見が終わったら受付近くで身内同士が話をしていたりする。これでは次につながらない。会見に参加した記者の頭数が中間目標になっているのではと邪推してしまう。呼ぶ側も呼ばれる側も、忙しい中時間を調整している以上、実りのある時間を過ごしたい。だからこそ広報には、記者が会場に来てから帰るまでの限られた時間をうまく演出してほしい。

ここまで細かいことを言ってきたが、記者会見に出て記者として一番困るのは、発表内容がおもしろくない場合。せっかくの会見なのに記事化できる要素が見つからないと、残念ながら無駄足となる。だいぶ前だが、発表会の出席前にNDA契約を結ばされたのに、ニュースになる情報がほとん​どなかったときは気分が萎えた。こういうことが続くと、その会社の会見からは自然と足が遠のいてしまう。

目立った発表がないなら、会見ではなく参加者を絞ったメディアミーティングを開くのはどうだろう。自分たちの事業について記者から率直に意見を聞くなどすれば、キーパーソンの時間は無駄にならず、記者の考えも理解できる。たとえその日にアウトプットがなくても次につながるはずだ。取材をした後、記事掲載の判断を下すのはデスクの役割である。だとすると記者がアウトプットをできるよう、情報提供やコネクションづくりを徹底し、ぜひ記者を手助けしてほしい。

残念な広報にならないための分岐点

× 指名した記者が取材に来ない!​代わりに紹介された記者に​不満タラタラ……

◯ 記者との関係性や肩書で勝手に​値踏みせず、記事の質で判断を

想定していた取材者が来なくとも、むやみに代理の記者の能力を値踏みするべきでない。長い付き合いの記者に紹介された記者なら、なおさらのことだ。

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