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実践!プレスリリース道場

報道後に「完売御礼」続出 柿安本店のプレスリリースを分析

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

デパ地下人気が続く中、惣菜コーナーを牽引しているのが柿安です。柿安本店は1871年に三重県桑名市に牛鍋店として創業。精肉を事業の柱に成長しており、東京では惣菜が有名ですが、東海では「お肉の柿安」としても知られています。今回はそんな同社の「松阪牛 幻のメンチカツ」のリリースを取り上げることにします。

具体的な数値をちりばめる

「幻のメンチカツ」は2015年11月に開催された「第66回松阪肉牛共進会(共進会)」で同社が競り落とした準優勝牛を使ったメンチカツです。共進会というのは丹念に肥育された50頭の中から優秀な松阪牛を決めるコンテスト。同社からは牛を触っただけで生体のまま肉の状態が分かるという「伝説の目利き職人」が競りに参加し、1頭671万円でこの牛を落札しました。そして和菓子を除く4業態で、料亭部門ではすき焼にするなど分配。惣菜部門ではメンチカツを販売することになりました。

広報室チーフの市谷美香子さんは4業態のうち、リーズナブルで消費者が購入しやすいメンチカツに焦点を当ててリリースをつくることに決定しました。メンチカツは同社が伝統的に力を入れている商品です。1998年に初めてデパートに惣菜店を出店した際、長い行列ができたという伝説があり、肉の老舗をアピールする意味もあります。最大の繁忙期である年末を過ぎて1月中旬から商品の開発が始まり、ギリギリまで試作が続く中、商品完成直後に写真を撮影。発売の2週間前である2月15日にリリースを配信しました。

では、そのリリースを見ていきましょう。まず、最も重要なタイトルで2月29日を「肉の日」と設定しています。(ポイント)記念日はメディアが記事を掲載する際にひとつの大きな切り口になります。しかも2月29日は4年に1回なので、特別感はさらに増します。「店頭ではお客さまに購入していただくきっかけづくりが重要で、2や9が付く日にはかなり敏感です。販促部門がPOPを立てたりして、いつも店頭のフェイス(見た目)が変わるよう心がけています」と市谷さん。記念日が効果を発揮するのは店頭でもリリースでも同様です。

レターヘッドが独特なことにもお気付きでしょうか。通常はレターヘッドの下にタイトルが来ますが、ここではその2つが一体化しています。見た目にもお洒落で、こういう方法もあったのかと思わされました。(ポイント)本文には、メディアに効果的なインパクトを与える数字を随所に配置しています。このリリースでいうと「671万円」という落札価格。メディアが具体的な数値を好むのを心得ており、リリースにはできるだけ目標数値や販売個数などを入れるようにしているそうです。また広報室マネージャーの深沢由太さんからは、「サクサク」や「コロンとした」などのオノマトペを活用するようアドバイスがあったそうです。確かにこの方が実感を持っておいしさを伝えることができますね。

複数の情報を交通整理する

私が一番工夫したなと感じたのは、(ポイント)情報に優先順位をつけていることです。メンチカツを最も目立つ1枚目にして文章量も多くし、2枚目にしぐれ煮とすき焼のことを分量を少なめに載せる、といった具合です。そう言うと当たり前に聞こえるかもしれませんが、もしこの案件を自分が担当することになったとしたらどうでしょう。671万円の準優勝牛を落札したことをメインにして、メンチカツとしぐれ煮とすき焼を等分に紹介しようとする人も多いのではないでしょうか。

ですが市谷さんは、消費者にアピールできるのはお手ごろ価格のメンチカツだと考えてリリースもシフトしました。私も671万円の牛が1個351円というお手ごろ価格で食べられるという対比におもしろさを感じました。実際にメディアもメンチカツばかり取り上げたようです。このように情報が多い中で、優先順位をつけて交通整理をするのが広報の手腕と言えます。

配信は東商記者クラブと農政クラブ、農林記者会を中心に...

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