一生かけて追求する価値のある「PR」の仕事の未来像を描こう
新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
米国PRのパラダイムシフト
新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
デジタル・ソーシャル時代に、企業トップがPRにおいて果たす役割はますます大きくなっている。トップは企業の「チーフエンゲージメントオフィサー」であり、「チーフストーリーテラー」。欧米ではこういった言葉で表現されるように、トップに社会との関係づくりのイニシアチブを求める風潮が強まっている。企業にとって最大の「PR資産」であるトップの存在をどう活かすのか。今回はその具体的な方法について掘り下げてみよう。
新聞記者として10年、PRコンサルタントとして十余年、取材やトレーニングを通じて1000人近いトップやエグゼクティブにお会いしてきたが、導き出した結論はひとつ。「トップやエグゼクティブのコミュニケーション力は企業価値と比例する」ということだ。社員への動機付け、士気高揚、社外のステークホルダーとの絆づくり。このすべての成否がトップのコミュニケーション力にかかっている。
アナログ時代であればトップは定期的にメディアに登場して、一方的に自分の考えを披歴するというぐらいのコミュニケーション活動で十分(図1)だっただろう。しかし、時代は大きく変わり、図2のように360度全方位、マルチプラットフォームでステークホルダーと向き合わなければならなくなった。今や、メディア露出はトップの対外的コミュニケーション活動のほんの一部でしかない。
これからトップにとってますます重要になってくるのが、ソーシャル・オウンドメディアを通じたコミュニケーション、ステークホルダーとの直接的な対話活動となるダイレクトコミュニケーションの2つであろう。トップによるコミュニケーション分野でのソーシャル活用は日本ではまだまだ進んでいないが、アメリカの実情はどうだろうか。CEO.comの2015年版SocialCEO調査によると、アメリカのフォーチュン500企業のトップのソーシャルメディア利用率は図3のような結果だった。CEO先進国のアメリカでさえ、驚くほどトップのソーシャル活用率は低いのが実態。やはり、何か問題発言をしてしまうのではないかといった警戒心が強いといえる。保守的な日本の企業ではなおさら、ソーシャル活用を期待するのは難しいかもしれない。
では、トップのコミュニケーションはどう進化させればよいのか。これからのトップにとって最も重要なのは、ステークホルダーとのダイレクトコミュニケーションだ。IR説明会、株主総会、取引先との会合など、従来のコミュニケーションチャネルに加え、カンファレンス、フォーラム、見本市などで登壇したり、動画中継などでネットを通じてコミュニケーションを取ったりする機会が非常に増えている。
『広報会議』2015年6月号でもご紹介したがPR会社のウェーバー・シャンドウィックが企業幹部に対して2015年に行った調査では、「どのような社外活動がCEOにとっては重要か」という問いに対し、「イベントなどでのスピーチ」と答えた人の割合は82%と最も多く、「メディア露出」の72%を上回った。
このように、トップのパブリックスピーキング力を含めたコミュニケーション力が大きく問われる時代になってきている、というわけだ。今回は、トップのコミュニケーション力を最大限に発揮してもらうためのステップを図4にまとめた。コーポレートPRの基本型である、ストーリーを(1)見つける(2)つくる(3)伝えるの3つのステップだ。
(1)の「見つける」作業は、企業やトップなどが持つストーリーを徹底的に掘り起こすことから始まる。創業ストーリー、経営ストーリー、トップのパーソナルストーリーなど、あらゆる角度から拾い上げていく。その際には他社との競合調査、社内外のステークホルダーへのヒアリングなどを通じて …