ローソンは、2015年度に社内表彰制度を刷新し「自律型挑戦大賞」を創設した。社員が自ら考え行動した成果を表彰することで、新たに策定した企業ビジョンや行動指針の実現を後押しする考えだ。インナーコミュニケーションサポート企業のゼロインの協力を得て事務局をリードした、人事本部の児島聡氏に聞いた。
大賞ロゴを含む各種制作物が表彰を盛り上げた。
「自律型挑戦大賞は、職場におけるちょっとした工夫によって大きな効果が得られた事例や、誰もが気付いているはずなのになかなか改善されなかった業務効率化の取り組みなど、自発的なチャレンジを奨励する制度です。約3700人のローソン全社員がエントリー可能で、1次、2次審査を通過し役員プレゼン審査を経て決まった優秀事例については、全社員参加の事業方針確認会の席上で表彰を受けるとともに、チャレンジ内容を発表する場が設けられています」(児島聡氏)。
同賞がスタートした背景には、ローソンの企業文化を変革するというトップの強い意志がある。「今後、社会の変化に対応するには、ローソンがお客さまや地域にとって“なくてはならない存在”になることが不可欠。そこで『1000日全員実行プロジェクト』と銘打ち、2016年度から3年かけて、社員一人ひとりがより自律的に行動できる人材に変化することを目指しています。大賞は、こうしたビジョンにもとづくメッセージを全社員に伝えるための重要なツールとして位置付けています。審査基準は、ちょうどそのときに制定を検討していた、新しい企業ビジョンと行動指針に沿うようにしました」。
2015年11月に締め切ったプレエントリーの応募総数は321件。過去2年間に開いた同様の社内公募表彰に比べ、3倍強になった。1チームの平均メンバーは3人、単純計算で計1000人程度の社員が参加したことになる。応募事例はこの後、1次審査を経て本エントリーへ。12月には2次審査を通過した事例が本部長の推薦を受けてファイナリストとなる。翌年1月には社員投票と役員による最終審査が控えていた(図参照)。
自律型挑戦大賞の最終審査基準
スタンス
▶本人が自分から、周囲を巻き込んで進めていたか
▶相手の立場に立って考えていたか
▶意志を持って取り組んでいたか
ナレッジ
▶売場力強化、商品力強化、加盟店支援につながる取り組みか
▶慣習・慣例に捉われない発想・工夫がある取り組みか
▶他の社員や組織の業務改善・成長につながる取り組みか
成果
▶最終的な成果
▶会社に与える影響度
▶事業全体の中での重要度
新たなビジョンと行動指針をもとに最終審査基準を策定。
“自分ごと化”促す工夫随所に
表彰式では、大勢の社員の前で受賞事例を共有。
ファイナリストに残ったのは7事例。ここから児島氏とゼロインでほぼすべてのチームと面談し、実際にプレゼンテーションする際の資料や発表内容をつぶさにチェックした。海外や遠方勤務のため直接社員と会うことができない場合は、電話などでフォロー。エントリー時点では報告書のような色合いが強かったそれぞれの発表資料を、受け手となる社員視点の内容に変えていった。映像も取り入れるなど、表現力を向上させたプレゼン資料を一緒に作り込んだという。こうした取り組みが他の社員にもインパクトを与え、ナレッジの共有を大きく前進させることになった。「1チームあたり最低3回はブラッシュアップしました。みんな自分たちのやってきたことが普通のことだと思っていました。第三者の視点で指摘してもらうことで、それらが実は、他の社員にとって参考となり、刺激となる内容なのだと気付き、自信を持つきっかけにもなりました」。
新設の表彰制度が成功した理由について児島氏は「ローソンという企業の変革期と合致し、トップ以下、全員が会社も自分も、もっと変えていかなければという意識が醸成されていたこと。そしてプロセスとスタンスを評価する姿勢を明確に打ち出せたこと。さらにファイナリストのプレゼンを見せて聞かせるものにしたことです。いい意味でローソンらしくない提案をいただけたことで、変革に対する期待感を生み出せた」と説明。また多くの社員に参加してもらうために、公募開始後にイントラネットを使い、応募状況などの情報を随時発信したことも功を奏した。
さらに玉塚元一社長(現会長CEO)をはじめ、「経営陣の理解やバックアップを全面的に得た」からこそ、スムーズな展開につながったという。
成果よりプロセスを評価
通常、社内表彰といえば成果や数字に目を奪われがちである。ローソンにも営業成績など数字を評価する表彰制度が存在する。しかし、自律型挑戦大賞は“チャレンジのプロセス”と“仕事に対するスタンス”の評価にこだわり、最終審査の比重をプロセスとスタンスに大きく振り切っている。「審査基準を企業ビジョン、行動指針と徹底的にすり合わせて策定したことで、全過程を通じてまったくブレのない経営メッセージが発信できました。こうした意識改革こそ、新しい企業文化の醸成につながる大きな一歩なのだと考えています」。
ローソン 人事本部 人事企画(元気推進)アシスタントマネジャー 児島 聡氏(こじま・あきら)2004年ローソン入社。店長、加盟店へのコンサルティング業務を経験後、社内公募で組織風土改革のプロジェクトに参加。社内イントラ、スマートフォンを活用したインナーコミュニケーションの活性化と、表彰やイベントの企画・運営を通じた社員・組織のモチベーションアップに注力している。 |
ビジョナリーな行動や兆しは社内に必ず生まれている。いかに表出させるか
今回のプロジェクトは「表彰式をどうつくるか」以上に、「新ビジョン・行動指針の浸透、企業文化づくり」を目的に捉えた取り組みでした。
そこで私たちが特に注力したポイントは2つ。ひとつは、社内の巻き込みプロセスの設計。例えば、応募時に上長に関与していただくことで、メンバーが気づかない埋もれがちな“いい仕事”を表出させる。この過程はマネジメント層の意識醸成につながります。エントリーシート設計も実は大切。自身の仕事や、他者の事例の見方が変わってきます。同時に、こまめな途中経過発信や社員投票などで、応募者以外からの関心も高めることで、自分ごと化を促進する設計を心がけました。
もうひとつは、第三者視点での共有ポイント掘り起こし。ブラッシュアップ時に「当たり前のことなので」という言葉をよく耳にしましたが、その“当たり前”が実は見過ごされがちな、全社で推進したい汎用的な取り組みだったりします。プレゼン資料も専門用語を排除し、全社員が理解しやすく、参考にしたくなる内容に変換しました。
ナレッジマネジメントでは「成果(業績)は真似できないが、プロセスやスタンスは真似できる」という視点が重要。「あの人だからできた」と思わせない審査のあり方、表出の仕方が、新たな行動を生み出す鍵を握ります。
また、表彰式で栄誉感や称賛感をどれだけ高められるかも、次回以降の参加熱量に影響します。特に今回は新設制度。受賞者が栄誉に感じるだけでなく、他の社員に「自分もあの場に立ちたい」と思わせる仕立てが必要でした。
企業が掲げるビジョンを体現するのは、現場で働く従業員一人ひとり。ロールモデルとして表出する基準がビジョンに沿ったものであれば、それを参考にしたビジョナリーな行動が数多く生まれ広がっていくはずです。
ゼロイン 取締役副社長兼COO 並河 研氏(なみかわ・けん)1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年、ゼロインの取締役に就任。 |
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