テレビ局報道記者出身の弁護士が法務とメディア、相互の視点から特に不祥事発生時の取材対応の問題点と解決策を提言します。
今回のテーマは「記者会見で謝罪したら、裁判で不利になるのか?」です。仮に、メーカーA社において、本来とは異なる異常な方法で製品を使用した小学生による死亡事故が発生したとします(図1)。こうしたケースでは、後に遺族がA社に損害賠償を求めてくることが予想されます。そこでは事故の原因がA社製品にあったのか、その異常な利用方法にあったのかということが争点になり得ます。
図1 A社製品の使用による死亡事故の場合
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A社が調査を実施
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小学生はA社の製品を本来とは異なる異常な方法で利用していたことが判明
A社の製品を使用した小学生が死亡する事故が発生しました。A社が至急、原因究明のための調査を実施したところ、どうやら事故の原因はA社の製品ではなく、小学生がA社の製品を本来とは異なる異常な方法で利用したことにありそうです。
A社の懸案
A社は、死亡事故ということですぐに記者会見を開くことを決めました。ただ、その利用方法が通常では考えられない方法であったこともあり、会見に出席するA社の社長は「記者会見で変に謝罪して、後々裁判で不利にならないだろうか」などと記者会見での謝罪をためらっています。
A社の社長が記者会見で謝罪をした場合、遺族は裁判において「A社の社長は記者会見で謝罪したじゃないか。自社の責任を認めたのだろう!」などと主張するかもしれません。そう考えると、A社の社長が記者会見で謝罪をためらう心情も理解できます。
法的に言えば、A社の社長が記者会見で謝罪したからといって、A社の責任を問う裁判において責任が直ちに認められるわけではありません。一方で責任の有無を判断するにあたって、記者会見で謝罪した事実をまったく考慮しないわけでもありません。しかし裁判所はA社の社長が謝罪した事実よりも、それ以外の客観的な事実をより重視します。本件で言えば、小学生がA社製品を使用して怪我をした状況の再現実験や …