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米国PRのパラダイムシフト

海外企業の株主総会から学ぶ 投資家をファンにする方法

岡本純子(コミュニケーションストラテジスト)

新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。

2015年のウォルマートの株主総会。ゲストとして女優のリース・ウィザースプーン、歌手のマライア・キャリー、ロッド・スチュワート、リッキー・マーティンなどが無償で出演した。

PRの重心がモノローグ(一方的な情報発信)からダイアローグ(対話)に移行するにつれ、企業と社会の接点は広がり、手法も進化しつつある。一方で、株主との重要なコミュニケーションの場である「株主総会」については、いまだ前例を踏襲する型通りのスタイルが日本では一般的だ。「株主総会」はまさに企業と社会の絆づくりの貴重なコミュニケーション機会であり、これを活かさぬ手はないはず。ピークとなるシーズンを前に、アメリカの事例などを参考に、「株主総会の新しいカタチ」を探っていこう。

無味乾燥な日本の株主総会

長年、こつこつと少額の株式投資をしてきた筆者の父が母を連れて、ある株主総会に参加した。その席で、一人の株主が、議長である社長にこう問いかけたという。「社長さん、あなたの話はちっともおもしろくないし、うまくない。最近はそういうトレーニングをしてくれる人もいるから、受けたらどうだ」。この言葉を聞きつけた母は、エグゼクティブ向けにプレゼンやスピーチの指導をしている筆者に、「この会社に売り込みに行ったら」と早速お節介を焼いてきた。親に「やらせ」で質問させていると誤解されても嫌なので行ってはいないのだが、「証券コード96XXの○○社さん! 株主さんのアドバイスに耳を傾けては?」と誌上でお声がけさせていただこう。

かように、日本企業のエグゼクティブのコミュニケーションは、無味乾燥になりがち。総会では特に、決められたシナリオ通りにまさに「読んでいるだけ」。参加者と目線も心も通わせることはない。筆者も後学のために、株主総会に足を向けることがあるが、行く度に残念な気持ちになる。株主総会は単なる儀礼という考え方もあるのかもしれないが、せっかく年に一回、株主との絆(エンゲージメント)と共感を築く絶好のチャンスでもある。心の通い合う総会づくりのヒントとして、今回は米国の先進事例を見てみよう。

コンサート、はたまたフェスか?

世界屈指の投資家、ウォーレン・バフェットが率いる「バークシャー・ハサウェイ」社。毎年、4月にネブラスカの田舎町・オマハのコンベンションホールで開かれる株主総会は、まさに「お祭り」だ。毎年、4万もの人が押し寄せ、金曜日から日曜日まで開かれる様々なイベントを楽しむ。今年4月の総会のスケジュールは図1のような感じだ。

2015年は同社の社外取締役であるビル・ゲイツやバフェットが卓球大会に参加するなど余興も盛りだくさん。お土産にバフェットをイラストにしたTシャツや下着まで揃えられ、コンサートかフェスか?という状態だ。熱心な株主は毎年、満を持して「バフェット詣で」にやってくる。彼らにとっては“お伊勢参り”のような「スピリチュアルな経験」なのだそうだ。

特筆すべきは約6時間にもわたるQ&Aセッション。バフェットとチャーリー・マンガーという2人の経営者は …

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