記者と広報は、なぜすれ違う?第一線で活躍するメディアの記者に本音で語ってもらいました。
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全国紙 元記者 Tさん(男性)20年間の全国紙勤務で地方支局、社会部、経済部、総合デスク職を歴任。現在はフリーランス。記者には書く勇気も書かない勇気も必要と説く。酒に弱いくせに夜回り先で注がれる酒を断れず、そのままお泊りしたことが一度や二度にはとどまらず。インタビュー取材がことのほか大好きな現場最優先主義者。 |
「書くなら書くって言ってくれればいいじゃないですかっ!」――気色ばんだ様子の報道対応担当A氏は、一目で立腹しているのが分かる。M&Aネタの記事は1面のトップを占め、本稿記事を受けて経済面に解説と雑観を掲載した。私はその彼に直接は記事を書く通告をしなかった。言いそびれたわけではない。初めから伝える意思を持ち合わせていなかったのである。
合併ネタをつかんだが……
話の発端は記事が出た日から1年さかのぼる。すぐにでもM&Aが実現しそうな勢いをみせ、関係した記者たち全員が「書いちゃいましょうよ」とはやる気持ちになった。ところが徐々に話の流れが変わり始めた。100%買収だった話は、経営統合から事業のみの統合へ、さらに競合企業も参戦し、M&Aはもはや古ぼけた写真のような存在になりつつあった。雲行きが怪しくなった途端、日々の取材はじれったく、ほぼ形を成さない内容に変わった。
報道対応のA氏が微妙なニュアンスで私に問いかけたのは、ちょうどそのころだ。「ウチと○○社との合併とかなんとかっていうネタ、追いかけているのはあなたでしたよね?」――ちなみに私はA氏にその話について取材したことは一度もなかった。A氏は広報5年目の中堅。若手と言っても差し支えないだろうが、広報室のメンバーが一気に若返りを図っていたため、A氏のキャリアでも広報室内では上位に位置していた。しかし、私がA氏にトップネタをそこで話す理由はなかった。
「いや、何も聞いてないよ。だれかウチの記者が追っかけているの?」――「どこまでしらばっくれるかなあ」。気まずい空気が満ち、話は終わった。
A氏に対する印象は元々、芳しいものではなかった。当社の記者がある独自ネタを記事にするとき、「明日の朝刊に載ります」とA氏に伝えた。独自取材に基づく内容はそれなりにインパクトを持つ四段記事に。ところが同日の朝刊に某大手経済紙にも、ほとんど同じ内容の記事が掲載された。
この記者を呼んで聞いたところ ...