2015年、新卒向け就職活動の選考開始が8月へ移行したのを受け、青山商事の広報室では全国101社を訪問するメディアキャラバンを実施した。「脱スーツ」の論調が広まるなか、いかに状況を好転させていったのか。

経団連(日本経済団体連合会)は2014年9月、2016年卒採用の選考スタートを2015年8月へ移行すると発表した。これにより生じたのが、「スーツ需要減少で業界大苦戦」というネガティブな報道だ。さらには「なぜ真夏にスーツを着なければならないのか」「クールビズの流れに反している」といった声が大きくなり、アパレル各社では業績への影響が懸念された。
国内外のスーツ市場でトップシェアの青山商事も例外ではない。ビジネススーツ事業が売上の8割を占める同社では近年、将来の顧客にもなりうる学生向け商品の強化に着手している。2006年からは女子学生向けの就活スーツも投入し、2013年度には就活関連の来店・購入者数は約10万人に達していた。それだけに就活のスケジュール変更は逆風ともいえる出来事だった。
101社のテレビ・新聞に提案
そこで青山商事の広報室では「脱スーツ」の論調を食い止めようと、2015年の1~2月、6~8月の2回にわたり全国のテレビ・新聞101社へのキャラバンを実施した。
「2014年春の時点で、就活の動向を切り口に『攻めの広報』に転じようと決めていました。社会性・話題性・市場性という3つのニュースバリューが揃っている今こそ、広報の出番だと社内を説得して、全国のテレビ局と新聞社を回ることに決めたんです」と話すのは広報室 課長の磯野猛氏。2008年から広報を担当しているが、戦略的な広報に乗り出すのは初のこと。当然ながら地方メディアとのネットワークはほとんどなかった。「電話をかけて情報を持ち込むだけでは、メディアの皆さんは会ってくれない。『ニュースソース』ではなく、『ニュースプランを提案できる人』になるべき」─そう考えた磯野氏は2014年にPRプランナー(日本PR協会認定)の資格も取得。パワーポイントでメディア向け提案資料を作成するのも初めての経験だったという。
就活生の本音が論調を変えた
第1弾のキャラバンは2015年1~2月で、実働23日間でテレビ局60社、新聞社17社の計77社を訪問。自ら作成した報道用資料をもとに「採用スケジュールの変更と経緯」「就活関連商品の過去3年間の売上高推移」などの説明を行った。
最もこだわったのは、「広報は宣伝ではない」というスタンスだ。2月には新商品「最強の就活スーツ」を発売していたが …