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「価値転換」がキーワード PR会社との理想の関係とは?

エムスリー・カンパニー

「クライアントの事業を理解した提案が少ない」─。PR会社にそんなイメージを持つ人もいる。食品・ヘルスケアに特化したPRを提案するエムスリー・カンパニーでは、クライアント事業の中長期的な方向性を共に検討した上でPR戦略を提案している。

エムスリー・カンパニー 代表取締役社長
エグゼクティブコンテンツストラテジスト/コミュニケーションストラテジスト 松本 淳(まつもと・まこと)

1995年プラップジャパン入社。キシリトール日本上陸プロジェクト、P&Gファブリックケア事業部(ファブリーズ、アリエール)、医療機器メーカーなどの戦略的広報活動に従事。その後、伊藤園宣伝部を経て、食とヘルスケアの分野に特化したエムスリー・カンパニーを創業。カルビー、ゼスプリ、フジッコ、ピップなどの戦略的な広報施策の企画、実施に従事。

「 食とヘルスケア」に特化したPRに強み

食品・ヘルスケア領域に特化したPR会社であるエムスリー・カンパニー。総合PR会社、メーカーの宣伝部門を経て同社を立ち上げた代表取締役社長の松本淳氏は、約20年にわたり食とヘルスケアのPR分野で第一線を走ってきたプロフェッショナルだ。

同社のポリシーは、PRを通して消費者に「価値転換を起こす」という点だ。「例えば、食品業界において2015年最大の価値転換といえば『おにぎらず』でしょう。海苔というジャンルはその使用用途が限られており、その消費スタイルにあまり変動のない商品でした。しかし、そこに『おにぎらず』という新たな選択肢が生まれたことで、消費者の間で価値転換が起こった。私たちもこうした価値転換を起こし、情報発信する側の価値に共感してもらうことで、生活者の日常に入り込めるようなPRを目指しています」。

そんな松本氏は昨今の食品業界は「アウトソース化」「スマート化」の時代に突入したと分析する。そのような変化の背景にある消費者のインサイトを読み解くのも、消費財のPRにおいて重要といえる。

「例えば、いま生鮮食品売り場の中でカットフルーツやカット野菜のコーナーが急激に拡大しています。少し前までは消費者の手間を省くような簡便さを追求した商品を使えば『手抜きだ』と言われていました。しかし、主婦層の中で意識の変化が起こり、いかに家事を時短し、スマートに合理化するかが“素敵な主婦”の条件となっていますよね。こうした消費者のインサイトを汲み取りながら、それを上手くドライブしてあげることがPR会社に求められているのです」。

しかし、一言で「ドライブする」と言っても一筋縄ではいかないもの。消費財のなかでも特に食品は商品の回転が速く、定番ブランドに育てるまでのマーケティングが難しい。競合環境も激化するなかで、クライアントの課題も複雑化している。

「以前、クライアントに、食品のマーケティングには『心を開く』『財布を開く』『胃袋を開きつづける』という3つの『開く』が重要だと教わりました。また、食品を扱う難しさは、消費者に続けてもらうこと。胃袋の大きさと財布の中身には限りがあるため、商品を生活者の暮らしに入り込ませるためには、いま食べている物と代替するか、一緒に食べてもらえるように提案するしかないのです」。

共感の連鎖を生むPRで
3年先を見越した計画を提案

さらに松本氏はこうした価値転換を起こすのは広告ではなく、PRだと断言する。「今までの習慣や思い込みを転換するためには、情報の受け手に共感してもらう必要があります。一つひとつの共感の連鎖がブランドの支持者を生み出します。特徴と差別化、ある意味強制的な広がりが前提の広告では共感の連鎖は起こりません」。

図1 キャズム理論視点の戦略開発

図1のジェフリー・ムーアの理論のとおり、食品・ヘルスケア領域で事業を成長させるには、ボリュームゾーンであるアーリーマジョリティへのアプローチが必要だが、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には溝(キャズム)があると考えられている。松本氏は、このキャズムを乗り越えるためには、共感の連鎖を生みだすPRこそ有効であると指摘する。

PR会社とクライアントの契約形態やパートナーシップのあり方は様々だが、同社ではPR業務を受注した際、クライアントの事業計画づくりからスタッフが携わる点が特徴だ。「当社では大抵の場合、クライアントとおよそ3年先の中期戦略を考えることから始めます。3年後、クライアントの事業が社会のなかでどのような存在になっていたいのかを一緒に考え、その姿に近づくために必要なPRを提案しています」。

こうした考え方は、PR会社とメーカーの両方を経験してきた松本氏自身のポリシーでもある。「消費財のメーカーは『本腰を入れてPRに取り組む』という段階にたどり着くまでが大変です。例えばPRをスタートする時には、チャネルはどうするか、売り場は確保できているのか、問屋との交渉は終わっているのか、売り場に商品を置いた後も売上を高めるニーズがあるのか、といった様々な準備が整っている必要があります。PRを始める以前の段階からクライアントとゴールを共有することが重要です」。

PR会社の役割が期待される一方で、本誌が広報部111社を対象に「外部委託に関する課題」について調査を実施したところ、「クライアントの事業をきちんと理解していない提案が多い」といった不満の声も寄せられている。松本氏はメーカーでの宣伝担当時代の経験を踏まえ、次のように指摘する。

「PR会社が思っている以上に、メーカーは『どれだけのメディアに露出させるか』よりも『どうやってこの商品を売っていくか』ということに関心があります。メーカーが欲しているのは、どんなに尖ったマーケティングメソッドやツールよりも、一緒に事業のことを考えてくれる良きパートナーではないでしょうか」。

PR会社とメディアは「生活者に役立つ情報を届けるという理念をともにする協働パートナー」であり、PRコンテンツをつくるときにも、読者や視聴者に有益であることを常に意識する。具体的なアクションとしては、記者のもとに直接足を運んだり、メディアとFace to Faceのコミュニケーションを徹底。地道な活動で積み重ねた信頼関係により、最近ではメディア側から「記者にレクチャーしてくれないか」と打診があり、専門メディアやウェブメディアなどを集めた、ヘルスケアや業界トレンドに関する勉強会を開催することもあるという。

PR会社と事業会社が良きパートナーとなる─。そんな未来を、松本氏は描いている。

    お問い合せ

    エムスリー・カンパニー http://www.m3com.jp/
    〒150-0022 渋谷区恵比寿南1-2-9 小林ビル4F
    TEL.03-5768-5807

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