新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを紹介する「リリース道場」。今回はダイニチ工業による、段階的にニュースをつくるリリースについて紹介します。
掲載実績を重ね社員に自信
アメリカ映画では超大作を制作する際に、まず人気原作の映画化決定から始まり、監督・主演決定、共演者決定など、公開のずいぶん前から何度も段階を追ってPRを展開します。世間の期待をあおり、いよいよ公開の時点で期待感が最高潮になるように仕掛ける戦略。私はこれを「ハリウッド式PR戦略」と名付けています。今回は地方のメーカーでありながらこの戦略に挑戦した企業を紹介したいと思います。
ダイニチ工業(新潟市)は元々石油ファンヒーターのメーカーで、台数シェアでは8年連続1位。2003年に加湿器を開発したことから電気商品にも進出し、2015年は電気ファンヒーターを発売しました。そもそもファンヒーターは、火力の強さが必要な石油は郊外、小型な電気は都市圏と、大体の消費圏が分かれています。今後、人口が減少していく日本では石油ファンヒーターだけでは市場の拡大が難しいため、電気への進出が計画されました。
野口武嗣さんが広報室室長に就任したのは2年前。それまでは営業職で広報の知識がまったくなかったため、私も講師陣の一人である宣伝会議の広報担当者養成講座を受講してくれました。ダイニチ工業はそれまで社内広報が中心で、対外広報は顧客アンケートの集計をするくらい。「変な内容でメディアに載って会長に怒られたらいけない、という意識でした」と振り返ります。しかし、野口さんはめきめきと力をつけ、2014年度はリリースを12本配信して143回もメディアに掲載されました。「社内でも『新潟でストーブだけつくっている会社がマスコミに出られるの?』という雰囲気だったのが、掲載実績が積み重なるとともに、社員も自信をつけてきたのを感じます」。
その後も私の指導を受け、自社ブランドでは12年ぶりの新規事業となる電気ファンヒーターで、いよいよ「ハリウッド式PR戦略」に挑戦することにしたのです。配信されたリリースを見ながら話を進めていきましょう。
メディアが注目するのは「防災」
第1弾(1)は「電気ファンヒーター市場に新規参入する」という予告のような内容で、発売1カ月前の7月29日に配信。第2弾(2)は具体的な商品紹介を8月27日に配信しました。(1)については「新規参入」や「12年ぶりの新規事業」「今秋より販売」など、(Point1)先の話でありながら期待感を持たせる単語をタイトルやリードに多く入れ込むことが重要です。商品の詳細が固まっていないこの段階では、「石油ファンヒーターでシェアトップのダイニチが電気ファンヒーターに参入」ということだけが伝われば十分なのです。対象も生活面ではなく経済面としました。「ここがPOINT!」として挙げている項目も既存の生産ラインや販路が活用できることなど、経済の目線を重視しています。このように …