遅すぎる報告書はむしろ逆効果
旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)は、昨年の記者会見で作成して大きく批判された「NGリスト」について、10カ月以上経った今年8月27日、調査結果を公開した。事務所とは無関係にPR会社が勝手にリストを作成したことなどが書かれている。しかし、正式な報告書の公開までにここまで時間が経過していることで、むしろ組織の姿勢に疑問を投げかける結果となった。
ウェブリスク24時
ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
埼玉県本庄市は、5月にテレビ報道された同市の企業誘致の施策が「効果が得られない失敗例のような印象を与える報道であったことは遺憾」などとして取材の経緯や対応方針を説明する情報をウェブ上に公開した。
取材を受けて報道された内容が事実と異なる、あるいは間違った印象を与えるなどとして、放送後、ネット上に説明とも抗議ともとれる情報を発信し、注目を集めるケースが増えている。
今回、本庄市の吉田信解(しんげ)市長は『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)の報道内容に対して、市役所の情報とは別に自らのFacebookページ上で「やはりテレビは話をつくるのが得意ですね。でも、ネットがない時代なら泣き寝入りでしょうが、そうはいきませんよ」と不信感を露わにした文章を投稿した。
取材時の話と違う、コメントの一部だけを使われたなど、「こんな目にあいました」という様々な不満が、このように取材を受けた本人の言葉で投稿されるケースが最近目立ってきている。
メディア側もネットで情報収集して取材にあたることが多いため、積極的にネットで発信する企業や組織が紹介されやすく、結果としてその後の反応も広まりやすいことが背景にあるのかもしれない。
ネット上でこうした不満を発信するのは組織のトップの場合が多く、個人的なつながりやシンパ(同調者)を中心に同情的なコメントが寄せられるケースが多い。しかし、経緯を細かく追ってみると、注意していれば避けられたメディア対応の失敗がほとんどである。それは広報を担当すれば誰もが持っているようなよくある苦い経験だ。
広報担当としては、むしろこうした事件を組織の広報を強化するきっかけにしたほうがいい。メディアトレーニングを受ける、事前のブリーフィングを丁寧にするなどの改善で関係者の意識や結果を変えることができる。
報じられる側が気にするほど一般の視聴者は印象を意識していないし、細かな情報を記憶してもいない。日ごろどのように自分がメディアに接しているかを考えれば分かるはずだ。そう考えれば、延々と報道の問題点を書いた文章を公開するのは、気持ちは分かるが、得策ではない。それが新たな取材の機会を遠ざける危険性すらある。
むしろ、アピールしたいポイントを簡潔にまとめ、「こうした理由で今、注目されています」とポジティブな雰囲気を前面に出して発信した方がはるかに賢明だ。興味を持って情報を探しに来た人にも、その方が良い印象で記憶が整理される。
広報には昔から「どんな露出も良い露出」という言葉がある。意図に反する内容でも、誤解を生みそうな内容でも、注目された機会を活かせばよい。チャンスだと捉えれば、組織の中にも外にも、その後にポジティブな結果を生む手が見つかるはずだ。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組みづくりに取り組む。著書は『エライ人の失敗と人気の動画で学ぶ頭のいい伝え方』(日経BP社)ほか30万部超のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。公式サイトは http://tsuruno.net |