12-year-old Thea's wedding to 37-year-old Geir
「Stop The Wedding」はノルウェーのNGO「プラン・ノルウェー」とPR会社Triggerが仕掛けた児童婚撲滅キャンペーン。架空の結婚式の様子はYouTubeで440万人が見守った。
カンヌの話題もひと段落したところで(広報会議も先月はカンヌ特集でしたね)、今回は、「PR界のカンヌ」ことセイバー賞の今年の様子をレポートしよう。セイバー(SABRE)賞は1989年に北米でスタートし、現在は北米、ヨーロッパ中東、そしてアジアそれぞれの地域でもアワードが主催されている。6月のカンヌに先だってヨーロッパ地域では5月に終了。2000以上のエントリーの頂点に立ったのが、ノルウェーの「Stop The Wedding」キャンペーンだ。ちなみに最終選考には今年のカンヌPR部門グランプリを獲得したP&Gの「#LikeAGirl」キャンペーンも残っていたようだが、これをおさえての最優秀賞となった。
さて、この「Stop The Wedding」だが、「12歳の少女が37歳の男性と結婚しそうになった話」といえば、日本でも少し話題になったので覚えている人もいるだろう。2014年のある日、ノルウェーの少女・テアが自身のブログで結婚することを打ち明けた。初めはウキウキしていたものの、日に日に幼すぎる結婚に不安を募らせていくテア。そもそもノルウェーでは12歳で結婚することはできない。これに驚いて憤る人々の中には、警察や児童保護センターに通報する人も現れた。この話は、ソーシャルメディアや報道を通じ、世界中を巻き込む話題となった。この時点で、実はこれがノルウェーのNGO「プラン・ノルウェー」とPR会社Triggerが仕掛けた児童婚撲滅キャンペーンだったことが明かされる。これを機に、世界中で毎日3万9000人もの女児が強制結婚させられているという社会問題の議論が巻き起こる。そして、児童婚に反対する人々400人が出席したテアの「結婚式」が開催され、その場でテアは結婚を「拒否」する。
なんとも絶妙なバランスの上に設計され実行されたPRキャンペーンだ。まず、フィクションとノンフィクションが織り交ざるストーリーテリング。これは一歩間違えると「炎上」するわけだが、仕掛けの開示タイミングなどが上手い。初めは仕掛け人の正体を明かさず、話題化しかけたところで開示。すべてバラしたうえで議論を白熱化させ、クライマックスの結婚式イベントへ注目を集める。国際社会を相手にした、いわば壮大な「釣り」なわけだが、これがPRの王道。話題やニュースになる「入り口」をつくって、アジェンダをセットし、合意形成にもっていく。250万人がブログを読み、3000万人がツイートし、結婚式はYouTubeで440万人が見守った。ノルウェー国内でのキャンペーン認知は82%に達し、スポンサーも殺到。ソルベルグ首相もコメントを出し、ノルウェーは15年ぶりとなる人権白書を発表した。少女のブログから国の動きまで、「行動変容」が増幅された成功例だ。ではまた来月!
本田哲也( ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー/戦略PRプランナー。主な著書に『最新 戦略PR 入門編/実践編(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、共著に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |