記者と広報は、なぜすれ違う?第一線で活躍するメディアの記者に本音で語ってもらいました。
雑誌編集者A さん(男性)経済、社会ネタからヘルス、芸能、特にエロまで幅広く日々取材活動に励んでいる。最近、女優の吉田羊と本田翼にドハマリしているが、なんと今クールのフジ月9ドラマで2人が夢の共演。録画した回を消去できず、全話終了するとハードディスクがパンパンになってしまいそうなのが悩みの種。 |
4月から新年度が始まって早々、日本を代表する大企業の不祥事をめぐる社長会見が相次いだ。
トヨタ自動車は6月19日、同社として初の女性役員、ジュリー・ハンプ常務役員が麻薬取締法違反の疑いで警視庁に逮捕されたことを受け、豊田章男社長が会見を行った。捜査段階にもかかわらず豊田社長は「ハンプ氏はトヨタにとってかけがえのない仲間」「法を犯す意図がなかったことを信じている」などハンプ氏を擁護する発言を繰り返し、一部の危機管理専門家やメディアからは批判も上がった。
翌月21日には、不適切会計問題で揺れる東芝の田中久雄前社長が会見を行い、第三者委員会が「組織的な関与があった」と断定したのを受け、田中氏、佐々木則夫副会長、西田厚聰相談役の歴代3社長が同日付で辞任すると発表。さらに「不適切な会計処理がされているとの認識はなかった」などと責任逃れとも受け取れる弁明に終始し、詰めかけた記者からは「ひどい会見」との厳しい声が多数聞かれた。
不祥事を起こした際の広報対応を一歩誤れば、その企業の信用が大きく失われるばかりか、経営が大きく傾く事態に発展しかねない。それは不祥事の際のみならず、普段の広報対応についても同様であるということはしばしば忘れられがちである。
そこで今回は、筆者が体験、見聞きした“危ない広報対応”の具体的事例について紹介したい。
取材依頼だけで「法的手段に…」
メディアが政府、つまり権力から独立した存在であるべきなのはいうまでもないが、某大手新聞社は一時期、財務省事務方トップである財務官OBで同省顧問(当時)だった人物を監査役として迎え入れた。同社の経営トップはその時々の首相クラスと定期的に会食を行うほどの人物であることでも知られている。そのため、同社広報部へ大物官僚を招へいした真意について取材を申し込んだところ、いきなり書面で「当社の名誉を毀損する行為を行った場合は法的手段に訴える」との回答が寄せられた。
ちなみにこの新聞社は、自社に批判的な報道を行ったメディアに対してすぐに訴訟を起こすことでも知られており、こうした体質が業界内で不評を買っていることはいうまでもない。
大手外食広報はピンキリ
「ブラックな労働環境」などと批判が集まる外食チェーンだが、消費者からのイメージを重要視するためか意外にも広報対応は丁寧なケースが多い。
例えば、昨年アルバイト店員などの過酷な労働環境が取り沙汰され、大量の店舗が営業一時休止に追い込まれた大手牛丼チェーン。その休止状況や理由、再開の見通し、労働環境に対する世間からの批判について広報部に取材を申し込んだところ、質問一つひとつについて非常に丁寧な説明を受けた。取材時に不明点があれば、資料を確認して後日改めて説明するという姿勢が印象的だった。取材する側も人間なので、こうした真摯な対応は報道のトーンを大きく左右する。
また、一連の食品安全問題により「客離れ」が叫ばれる大手ハンバーガーチェーンも、丁寧な広報対応に定評がある。一部インターネット上で噂になっているといったレベルの案件について取材を申し込んでも、真摯に対応してくれる。当然、質問によっては回答を拒否されるケースもあるが、そのような場合も「大変申し訳ございませんが、弊社としては現時点でお答えすることはできません」と明確に回答してくれるため、メディア側としても「取材を拒否された」というような批判的な表現を避けようと配慮してしまう。
そんな外食業界でも、広報に問題があると感じざるを得ない企業もある。先進的かつ効率良い店舗運営・経営で知られる大手外食チェーンA社へ社長インタビューを申し込んだときのことだ。広報部は「担当者から折り返す」とのことだったが、一向に返事がなかった。2カ月もの間、何度もこちらから広報部へ連絡するものの、「担当者から折り返す」の一点張り。何とか担当をつかまえたが「無視しているわけではないのですが、社長は多忙なので待ってください」という答えだった。しかし、その2カ月間、さらにそれ以降もA社社長は度々別メディアの取材に応じており、当方の取材を拒否していたことは明らかだ。
社長が出演するメディアを選ぶことは当然あってしかるべきだが、拒否するのであれば広報部は明確にその理由を伝えるべき。メディア側としては執拗に取材交渉を続ける羽目になるわけで、無駄な労力を強いられたA社に対する心証を悪くする。
このほか、最近テレビなどでも話題に上ることの多いB社の事例も紹介しよう。B社へ取材して報じたところ、広報部から「取材を受けていないにもかかわらず、あたかも取材に基づくかのような報道をしているので抗議する」との連絡があった。実はB社の広報部ではないほかの部署に取材をしていたため、その旨を伝えたところ、結局広報部の勘違いであったことを認めたという“珍事”があった。
この場合、まず社内でどこの部署が取材を受けたのかを確認し、それでも分からない場合は、記者に「抗議」するのではなく、「照会」というかたちでコンタクトを取るべきである。いきなり抗議するという対応は危険な行為だといえる。
某自動車メーカーの“逆取材”
最後に、大手自動車メーカーE社の人事について報じた際の顛末をご紹介したい。よほど気に入らなかったのか、広報部が大手新聞各社でE社を担当するデスク級に片っ端から電話をかけて、「この記事の情報源はあなたのところではないか」と一斉に“逆取材”を行った。ちなみにE社の広報部は、社長が交代すると人員の大半が一斉に交代し、社長に近い人物が責任者に据えられることでも知られる。
残念ながらこうしたあからさまな行動はマスコミ業界内ですぐに広まるため、何かのきっかけでその事実が明るみに出るリスクがある。避けるほうが無難であろう。
残念な広報にならないための分岐点
× 受けたくない取材依頼が来た。とりあえず、放置で…
○取材を断るなら、理由を明確に伝える。
→広報の真価が問われるのは、意外にもこうした取材を断るとき。明確な理由を丁寧に伝えれば、相手も無下にはしないものだ。