危機を乗り越えるための対応方法は、時事ニュースの中から学べる点が多くある。取材される側と取材する側の両方を経験し、広報業界を30年以上見続けてきた作家・ジャーナリストが、危機対応の本質について解説する。

ダイバーシティ経営のリスク噴出
注目人事が想定外の結果に
6月30日、ジュリー・ハンプ氏の辞任で幕を閉じた今回の事件。辞任を伝えるステートメントには、「世界のどこでも社員が安心して働き、活躍することができるよう改善すべき点はしっかり改善し、『真のグローバル企業』を目指す」というメッセージも綴られている。
どうする?「想定外の危機管理」
「トヨタ自動車のCCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)で、同社初の外国人女性役員」という輝かしい肩書きを持つ米国出身役員が、「麻薬密輸容疑」で逮捕された事件は、“広報の想定外の突発性危機管理”に位置づけられる重大案件だった。トヨタ広報がパニックに陥ったのは、6月18日。ホテル住まいをしていた彼女の逮捕は出社前の午前中。警視庁からの連絡で広報が事件を知ったのは午後1時である。同事件の経過は右表のようだった。
コメント発表までの4時間
「麻薬取締法違反容疑で広報のトップ逮捕」という寝耳に水の“前代未聞の刑事事件”で、しかも全貌がよく分からず、トヨタの広報や上層部は狼狽した。そこへ警視庁広報課を通じて事件を知ったメディア各社からの問い合わせも入り、どうやって発表したらいいのか意見百出。混乱状態を呈したが、豊田章男社長の「自分が記者会見する」の鶴の一声で一件落着。コメント発表までに4時間を要した。情報収集時間、発表方法、リリースの作成時間などを勘案してそれだけの時間がかかったと思われるが、次のような疑問の声も出た。
【疑問1】 対応は早かったか? 遅かったか?
もっと早く発表することもできた。警察から通報を受けてから1時間以内でも可能だった。ただし、その場合のリリースは、「第2弾、第3弾を想定した上での第1弾」という位置づけの“号外的な緊急発表”とし、「午後1時に警視庁より、弊社CCOが麻薬輸入容疑で逮捕されたとの連絡がありました。詳細な事実関係が判明次第、追って発表させていただきます」といった内容にする。そうすれば、メディアのバッシングは避けられる。
コメントという形でトヨタ広報が発表した謝罪リリースはわずか144字だが …