「おそれいりこだし」などのギャグで、公式アカウントの「中の人」ブームの先駆者となった末広栄二氏。この6月にハーバー研究所の社長に就任し、ソーシャルメディア活用の知見を活かした経営に取り組み始めた。

ハーバー研究所 代表取締役社長 末広栄二氏(すえひろ・えいじ)
米国カリフォルニア州ロサンゼルス遊学後、1985年に映像制作会社を起業。1999年に同会社を譲渡した後、レインズインターナショナル、シャトレーゼなどを経て、2007年には加ト吉(現テーブルマーク)に入社。SNSを使用した広報活動が話題となった。2014年にハーバー研究所に入社。2015年6月より現職。
「かとぉおおきちぃい」の仕掛人
今年5月、ソーシャルメディア業界はにわかにざわめいていた。かつて、「加ト吉」ブランドで有名な冷凍うどんメーカーのテーブルマークで「Twitter部長」として名をはせた、末広栄二氏がハーバー研究所の社長に就任するとのニュースが流れたからだ。
Twitter部長といえば、2009年のNHK紅白歌合戦で、レミオロメンの『粉雪』のサビに合わせつぶやいた「かとぉおおきちぃい」というツイートがネット上で広く話題になった、その仕掛人である。そんな末広氏が化粧品メーカーのトップに就任した今、ステークホルダーにどんなメッセージを発信しようと考えているのだろうか。
いかにVIP感を与えるか
「私がTwitterを始めた理由は、商品の告知や宣伝ではなく自社のメディアを持ちたいと考えたため。そして、Twitterを通して会社とお客さんの間に新しい関係を築くことが目的でした」と振り返る末広氏。
「テーブルマークでは、お客さまと社員の距離が遠かったため、Twitterがお客さまとの距離を近づけるためのツールになっていました。また、2011年に丸亀製麺に移った後は、さらに一歩踏み込んで社員とお客さまの垣根を取り払うために活用していましたね。新商品発売時にツイキャスでオフィスから新商品紹介の様子を中継し、周囲はみんな仕事をしている中で、こっそりうどんをすするという微妙な緊張感がネットで受け、話題になりました。また、商品会議をネット上で展開し、ネットユーザーの声を商品開発に活かすといった取り組みもしていました」。
ネットユーザーに受ける絶妙なツボをとらえ、自社の情報発信に活かしてきた末広氏。一方で多くの企業がTwitterやFacebookを活用するようになり、ソーシャルメディアの公式アカウントが“飽和状態”になってしまった今、いかにネットユーザーとの距離を近づけようと考えているのか。
「ポイントは『VIP感』なんです。例えば、『いつも商品を使ってくれてありがとうございます。ご感想はいかがでした?』と社長に直接言われたら、やっぱり嬉しいですよね。ただ、企業の規模が大きくなるとなかなか難しいので、ソーシャルメディアを使ったコミュニケーションで“特別感”を感じさせる雰囲気をつくりだすということをやってきました」。
社員出演動画が共感を呼ぶ
そんな末広氏は今、新たなコミュニケーションツールとして動画の活用に注目している。ハーバー研究所では4月からこの手法を取り入れ、社員の手作りによる商品紹介動画を公開している。社員が自ら出演し、商品の使い方やポイントをアピールすることで、より消費者に近い感覚で商品の魅力を伝えることができるという。
「社内で撮影していますが、あまりプロっぽくなく、かといって下手すぎない絶妙な具合を狙って制作しています。重要なのは、社員自身が『自分が気に入って(商品を)使っていますよ』と実感をもって発信すること。始めてまだ4カ月ですが訴求力がまったく違い、商品が足りなくなるくらい売れています(笑)」。
また、5月からは、オウンドメディア「freesia」をスタート。美と健康に関する情報を幅広く発信している。
「エディターを採用し、自由に情報発信してもらっています。商品にほとんど紐づいていない情報ばかりですが …