危機を乗り越えるための対応方法は、時事ニュースの中から学べる点が多くある。取材される側と取材する側の両方を経験し、広報業界を30年以上見続けてきた作家・ジャーナリストが、危機対応の本質について解説する。
信用低下は免れず…
トップページでお詫び表明
不適切会計事件を受けて、トップバナーに大きく田中久雄社長名でのお詫びが表示された東芝のサイト。事態の発覚は5月頭だが、6月末現在で未だ表示され続けたままだ。
東芝の“煙幕作戦”
「東芝の不適切会計事件」は、「証券取引等監視委員会への内部告発」が発端で、同社が4月3日に配信した「特別調査委員会設置に関するお知らせ」と題した2枚のプレスリリースによって表面化した。
リードの文章は以下のようだった。
「当社(単独)の2013年度における一部インフラ関連の工事進行基準に係る会計処理について、調査を必要とする事項が判明しました。当社は、この事態を真摯に受け止め、直ちに社外の専門家を含む特別調査委員会を設置し、自ら事実関係の調査を行うことといたしましたので、下記の通りお知らせいたします。(段落・改行)株主、投資家の皆様をはじめとする関係者の皆様には、多大なご心配をお掛けしますことを心からお詫び申し上げます。」(原文は6行・197文字。傍線は筆者)
特別調査委員会のメンバーは、委員長の室町正志東芝会長、委員5人(社外取締役、法務担当上席常務、経営監査担当常務、弁護士、公認会計士)で構成。調査期間は1カ月程度で、「工事進行基準案件に係る会計処理の適正性を検証し、検証結果を踏まえ改善・再発防止に関して提言する」と書いてあったが、具体的な数字は開示せず、何とも抽象的で意味不明なリリースだったものの、「インフラ関連事業で不適切な会計処理があったらしい」と推測できた。
メディアも「不適切な会計処理」という“紋切り型のソフトな表現”を使っているが、ありていにいえば“粉飾疑惑”、コンプライアンス違反、「ガバナンス機能せず」である。だが、この時点では、東芝広報の“煙幕作戦”が功を奏し、大事には至らなかった。
この発表を受けた週明け6日の東証一部の株価は、どう反応したか。東芝の株価の終値は487.3円。前日比30円安で下げ止まり、その日以後も475~500円あたりで推移した。その時点では、東芝を揺るがす大事件という認識はメディアにも兜町にもなかったのだ。
第三者委設置でストップ安
ところが、最初のリリースの発表から1カ月以上が過ぎた5月8日、東芝が第2弾のリリース3種(計8枚)を同時発表すると、風向きが一気に変わった。
リリースの主な内容は、「2015年の期末配当は無配」「業績予想の下方修正」「第三者委員会の設置」となっていた。週明け11日の東証の反応は、今度は違った。失望売りが殺到し、「ストップ安」(80円安)の403.3円。尋常ならざる事態に陥ったのである。
次に東芝広報がリリースを放つのは5月13日。この日発表の第3弾は、「第三者委員会の設置」についてだった。そこには、同社の稼ぎ頭のインフラ関連部門が「工事進行基準」と呼ばれる経理手法で不適切な経理処理を行っていたことが社内調査(特別調査委員会)で判明したので、以後は外部の専門家に調査を委ねるという内容だ。工事進行基準は、一般には馴染みがない専門用語だが、「複数年にわたる工事では、完成しないと売上に計上できないのではなく、建設途中年でも工事の進捗度に応じて売上を計上できるしくみ」をいい、東芝は、「その年の原価総額を過小に見積もる不正経理処理をして、利益のかさ上げを図っていた」のである。
練りに練った危機管理の盲点
東芝は「不適切な会計処理があった」といいながら、具体的な数字をなかなか公表しなかったので、痺れを切らしたメディアからの問い合わせが殺到。同社は、13日の午後11時45分という妙な時間に、プレスリリース第4弾「現時点で判明している過年度修正額見込み及び第三者委員会設置に関する補足説明」を発表したものの、そこにも「3つの社内カンパニーで計500億円強の営業損失」としか書かれていなかった。
プレス発表に求められるのは、スピーディーさと、分かりやすい内容だ。その点、東芝は“ぶつ切り発表”で、しかも内容が薄すぎた。ただし、文章は達者でムダがなく、アラの探しようがないとくるから、たちが悪い。百戦錬磨の東芝広報流の危機管理が、メディアの怒りに火をつけてしまった。「4月3日のリリース発表から株価が大きく下落した5月8日の発表までの間、何をしていたのか」という怒りだ。
「速さ」と「内容」の両立
東芝広報は、その2日後の5月15日、ついに「緊急社長記者会見」を開く。開始時刻は午後7時45分。事件発覚後 …