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「ものづくり」技術と広報

あの町工場の海外戦略成功の理由は広報にあり?ものづくり企業は広報で差がつく

円安傾向を受け、好景気に沸く製造業。5月の決算発表で過去最高益となる企業も続出した。今こそ積極的に海外にアプローチし、この効果を最大化するチャンスが訪れているものの、製造業や海外PRに詳しい専門家は、日本企業が持つ技術力のアピール不足を指摘する。

    円安傾向が加速、輸出チャンスが到来。

    (資料)財務省「貿易統計」、日本銀行、内閣府
    ※輸出金額指数は、財務省による季節調整値を指数化した。輸出数量指数は、財務省「貿易統計」の数値に内閣府が季節調整をかけたもの

「勝ち組」「負け組」が鮮明に

経済が円安傾向に振れ、海外に商品を輸出する製造業にとっては大きな追い風となっている。日刊工業新聞で、機械メーカーなどを担当する第一産業部長を務める藤元正氏は、日本の製造業の現状についてこう分析する。

「円安傾向で製造業は持ち直しを見せていますが、業績がよい企業と悪い企業がはっきり二極化してしまったという印象です。BtoBにシフトしているパナソニックや日立製作所は好調ですが、ソニーはコンシューマー向けでは苦戦しています。一方、ソニーもスマートフォン向けのイメージセンサーなどビジネス向けでは成功している。BtoC企業でもBtoBの技術を持っていることが強みになっています」。

一方、経済産業省製造産業局の菅野将史氏も、製造業の二極化についてこう指摘する。

「かつては商社を通じて海外展開を進める企業が多かったですが、現在は商社が資源ビジネスにシフトし、製造業は自力で販路拡大をせざるを得なくなりました。そこで、独自で海外の見本市などに出展し販路を拡大していく企業と、大手の下請けとして受注生産を続けていく企業とで大きく差がついているように感じます」。

好景気の追い風を「稼ぐ力」に変え、「勝ち組」となるために、何が必要なのか。そのヒントになるのが、経済産業省が2014年に発表した「グローバルニッチトップ(GNT)100」だ。

    全国各地で、中小製造業が活気付く。

    「GNT企業100選」選定要件(企業規模別)

    ●シェアだけでなく、利益も確保していること
    ●特定のサプライチェーンに依存せず、より多くの企業、より多くの国に供給していること
    ●グローバルニッチトップ製品を増やしていること
    ●シェアの持続性があること

    大企業
    世界市場の規模が100~1000億円程度であって、20%以上の世界シェアを保有

    中堅企業
    10%以上の世界シェアを保有
    ※中堅企業:大企業のうち売上高が1000億円以下

    中小企業者
    10%以上の世界シェアを保有

    出所:「GNT企業100選に見る企業競争力の傾向と特徴」(経済産業省製造産業局)

2代目、3代目の改革に期待

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意欲とアイデアのある2代目、3代目の経営者の手により成功するケースが出てきている。(写真上から)東大阪の町工場3代目から独立したDG TAKANO高野雅彰社長、金属加工会社「ニットー」2代目の藤沢秀行社長。

経済産業省では2014年3月、ニッチ分野ながら世界をまたにかけて売上を伸ばし、高いシェアを獲得している企業を「グローバルニッチトップ企業(GNT)」として選定。日本の中小企業を応援し、企業ブランドを高めるための取り組みを実施している。

GNTとして成功した企業には、どのような特徴があるのだろうか。興味深いのは同省がGNT企業100社を対象にとったアンケート調査だ。100社の内訳を見ると、地方に拠点を置く企業でも地理的要因に左右されず、海外市場にアプローチし、売上を伸ばしている中小企業が多数存在しているということが分かる。

また、アンケートからは、GNTのような「元気のある」中小町工場の担い手の典型例は、高い技術を開発した初代創業者から技術を受け継ぎ、新たな視点を持って顧客や販路開拓に当たっている2代目、3代目にシフトしつつあるという。菅野氏はこう語る。

「ものづくり企業の創業オーナーは、独自の技術を武器に、自身の人脈だけで経営ができてしまっていたがために、新規顧客を開拓するという視点がなかったという人が多いです。一方、一般の企業などで営業やマーケティングを経験してから後を継いだ、2代目、3代目の社長が、自身の経験から自社製品の販路拡大の可能性に気づき、海外で販売したという例がGNT企業の典型例ですね」。

実際、今回の特集で取材した、精密位置決めスイッチで世界トップシェアを誇る「メトロール」や、航空・宇宙機器部品製造で売上を伸ばす「由紀精密」など、大手やベンチャー企業での勤務経験がある2代目、3代目の経営者がPRやマーケティングの発想を持って経営を手がけ成功を収めている事例が多かった。

「ものをつくれば売れた」時代の成功体験を捨て、いかに新たな視点を取り入れることができるかが、成功への第一歩といえそうだ。

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インナーコミュニケーションも課題に。グローバルニッチトップ企業のひとつである「メトロール」では、従業員から日々の業務のカイゼン提案を受け、すばらしいものを表彰するなど、風通しのよい風土をつくっている(右)。また、航空部品などを製造する「由紀精密」では、オフィスにテレビ電話を設置。離れたオフィスにいてもコミュニケーションを密に(左)。

    PR、マーケティング視点を持つ優秀な2代目、3代目が活躍。

    出所:「GNT企業100選に見る企業競争力の傾向と特徴」(経済産業省製造産業局)

産官学連携が重要なファクター

では、BtoB企業が取るべき、具体的な広報戦略について考えてみたい。まず、有効な施策として挙げられるのが、地域や大学との連携だ。

菅野氏によるとGNT企業の中にも …

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