危機を乗り越えるための対応方法は、時事ニュースの中から学べる点が多くある。取材される側と取材する側の両方を経験し、広報業界を30年以上見続けてきた作家・ジャーナリストが、危機対応の本質について解説する。
「私たちは、今回、一瞬にして大切なお客さまから信頼を失ってしまいました」
東洋ゴム工業(以下、東洋ゴム)の山本卓司社長が、4月1日に行われた入社式の訓示で述べた痛恨の言葉だ。
東洋ゴムの広報が、「免震ゴムの性能偽装」を公表する場として社長謝罪会見をセッティングしたのは、入社式に先立つ3月“13日の金曜日”。メディア関係者に配られた3枚綴りのリリース(+補足資料15枚)の見出しは「当社が製造した建築用免震積層ゴムの国土交通大臣認定不適合等について」だった。
一方、データ偽装を見抜けなかった監督官庁の国土交通省(以下、国交省)も同日、2枚綴り(+参考資料1枚)のリリースを発表。こちらの見出しは「東洋ゴム工業が製造した免震材料の大臣認定不適合等について」。
意図的なのか、揃いも揃って分かりにくい日本語にしたものだが、こんな言い回しをありがたく流用するメディアなどありはしない。例えば、新聞各紙を見ると、「東洋ゴム免震材不正」(産経)、「免震ゴム不正」(毎日)、「不良免震ゴム」(朝日)、「免震ゴム偽装」(読売)など、見出しはストレートである。
「愚直」を掲げる社風を裏切る
メディアが露骨に報じることは初めから分かっているのだから …
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