WWFが路上で実施した、アスファルトの上で卵や肉を焼くパフォーマンスの様子。地球温暖化とパラグアイの森林消失問題への注目を集めるのがねらい。
南米のパラグアイはとっても暑い国だ。首都のアスンシオンは「世界でもっとも暑い都市」に認定されていて夏の最高気温が40度を超える、まさに「アチチ」な国なのだ。そんなパラグアイでいま問題になっているのが森林消失。1960年に900万ヘクタールあった森林が、今は170万ヘクタールと5分の1にまで減少した。実に50年間でその80%が破壊されたことになる。
言うまでもなく、その元凶は地球温暖化。先日のニュースでも、南極で過去最高となる17.5度が観測されたと報じられた。僕たちが何となく毎日を過ごしている間にも、温暖化は着々と進行しているというわけだ。
この問題にグローバルに取り組むのが、世界最大規模のNGOとして知られるWWF(世界自然保護基金)だ。WWFは、地球の平均気温の上昇を「産業革命以前のレベルに比べて2度未満」に抑えることを目標として掲げている。もちろん、世界レベルで温暖化問題を啓発しPRすることも、WWFの大事な仕事だ─しかし、地球規模の環境問題を日々忙しく過ごす人々に伝えるのはそう簡単なことじゃない。「ワタシには関係ないし……」とスルーされず、メディアや口コミで拡散されるようなアイデアが必要なのは、今どきNGOでも同じである。
そこでWWFがパラグアイで実施したPRのアイデアが面白い。その名も「Global Warming Menu」。首都アスンシオンに突如として出現した路上レストラン。腕をふるうのは現地で大人気のカリスマシェフだ。卵や肉などの食材を手早く下ごしらえすると、フライパンに投入して美味しそうなランチメニューを料理し始める。しかしそこにガスや電気の火力はない。あるのはアスンシオンの日射しで焼けつくような温度となったアスファルトに、子どもの落書きよろしく描かれた「4口のコンロ」。驚くべきことに、アスファルトに置いただけのフライパンの上で、卵や肉はたちまちジュージューと美味しそうな音を立て始める。まさに、「地球温暖化がつくるランチメニュー」というわけだ。
このPRはまたたく間に話題になり、多くのメディアが取り上げ、ソーシャルメディア上でもその様子が拡散された。話題に接触することによって、地球温暖化とパラグアイの森林消失問題にあらためて注目してもらうねらいだ。この手の啓発活動となると、ついついマジメな情報をマジメにメディアに提供したり、マジメな内容がぎっしりつまったマジメなウェブサイトをつくったりしがち。もちろんそれらがベースになるが、そもそも振り向いてもらえなきゃ意味がない。大きくてコムズカシイ問題にこそ、日常的なPRアイデアが大事です。しかしこのキャンペーン、恐ろしくコストかかってなさそうですね……ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー/戦略PRプランナー。主な著書に『最新 戦略PR 入門編/実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)、共著に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。 |