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「64」ドラマ化レポート

広報パーソン必見!横山秀夫さん原作『64』ドラマ化完全ガイド

横山秀夫さんが「マスコミ対応のすべてを書いた」と語る作品『64』。4月18日からNHKでドラマの放映がスタートするにあたり、地方県警の広報室を舞台とする本作の見どころをチェックしておきたい。

県警広報と記者クラブの関係

『64』は昭和64年に起きた「D県警」史上最悪の誘拐殺害事件をめぐって展開されるミステリードラマだ。D県警広報官の三上義信(ピエール瀧)を主人公に、家族の問題、そしてマスコミとの軋轢が複雑に絡み合う─。

同じく横山秀夫さんの作品『クライマーズ・ハイ』では、「北関東新聞社」を舞台に取材現場や記者の気質、生態を細かに描き出したが、『64』は県警の広報室と記者クラブの関係性に迫るなど、より一層、広報の仕事に密に関わる内容でもある。ちなみにドラマ『64』の制作スタッフは、NHKで2005年に放映されたドラマ『クライマーズ・ハイ』と同じ面々。横山秀夫作品の映像化は同作以来となるそうだ。

「広報室は窓」が意味するもの

捜査の現場から広報官に転じた三上は、マスコミ各社の県警担当記者らと何度となく衝突する。記者会見場はもちろん、県警本部の廊下などあらゆる場面で対立が繰り広げられる。D県警の記者クラブに属する全国紙の地方支局や地元紙などの記者の中でもキーマンとなるのが、東洋新聞のキャップである秋川修次(永山絢斗)だ。

原作を読むと実感するところだが、『64』はとにかく登場人物が多い。今回、NHKの協力のもとD県警広報室と記者クラブを中心とする人物相関図を作成したが、ここで掲載した人物はあくまで一部でしかない。

それはすなわち、広報という仕事が言うまでもなく、組織全体に関わる仕事であるということをも意味している。組織内外のあらゆる人々のバックグラウンドを把握し、それぞれの事情を慮る。そんな広報室の立ち位置を三上は、「外に向かって開かれた唯一の『窓』」と表現した。

編集部では2013年末、横山秀夫さんに本作に関するインタビューを敢行したが(2014年1月号『広報会議』掲載)、横山さんは当時、“窓”という言葉について「マスコミと警察の立場の違いを表そうと考えたときに、この言葉がひねり出された」と述べている。

現役記者もリアリティに太鼓判

より詳しい情報を引き出そうとするマスコミと、距離を取りながらうまく付き合い、あわよくばコントロールしようとする警察。その矢面に立つ広報室は、記者らの要求に対し強硬に突っぱねるときもあれば、記者クラブや飲みの席で懐柔に動いたりもする。

なお、D県警広報室のメンバーは三上を含めて4人。記者とのパイプ役である諏訪(新井浩文)、真面目さが取り柄の蔵前(永岡卓也)、そして紅一点の若手である美雲(山本美月)。広報は女性が活躍する仕事でもあり、若い担当者も多いが、作中では若手の女性広報の役割や立ち位置の難しさを考えさせられる場面もある。

さらには刑事部と警務部の全面戦争など、広報担当者が陥りがちな組織内での“板挟み”状態を追体験できる作品でもある。組織の力学が働く一方、その組織を構成する個々人の思いが反映され、事態はときに思わぬ方向に展開する。緊張感ある場面が続くため、同様の悩みを抱える広報担当者は感情移入するあまり、気が休まらないかもしれない。それでも観るべき価値のある作品と言って良いだろう。

ある全国紙の記者は「特に、社会部の記者との付き合いがない広報担当者にこそ観てほしい」と太鼓判を押す。なぜなら、彼らは『64』が描き出す世界が本物であることを認めているからだ。記者生活を経て作家となった横山秀夫さんが「広報とマスコミはどこまで行っても平行線にしかならない、という問題が存在する。この事実を提示したかった」「この種の問題でマスコミが言うであろう台詞はすべて書き尽くした」と言い切っているのだから、そのリアリティに間違いはないだろう。

NHK土曜ドラマ『64(ロクヨン)』放送予定:2015年4月18日から全5回(毎週土曜22時)
原作:横山秀夫『64』/脚本:大森寿美男
音楽:大友良英/演出:井上剛(ドラマ番組部)ほか/制作統括:屋敷陽太郎(同)

 

現役の新聞記者が証言
『64』のここがリアル

解説/全国紙記者Tさん(30代男性)

『県警記者クラブ』

とにかく地方県警の記者クラブの雰囲気がリアル。地元紙のベテラン記者は発言力が強く、加盟全社が参加する「クラブ総会」の場面でその力関係がよく描かれている。また、広報室の若手女性警官は優秀かつ美女が多く、記者と結婚した前例もある。担当記者と広報室の濃密な付き合いの中でありがちな、仕事とプライベートの混同した微妙な人間関係が登場する。




『報道協定』

身代金誘拐事件など報道活動が被害者の生命を左右しかねない重大事件が発生した場合、解禁日時まで取材や報道を一切しない代わりに県警側から情報を全面提供する約束を交わすルールがある。現実には経験者はほとんどいないが、本社から来る大量の援軍、レクの度に飛び交う怒号、真夜中まで続く記者会見など実際に発生すれば想像に難くない事態と言えそう。




『匿名報道』

容疑者や被害者の名前が匿名発表され、県警との間でもめるというのは地方県警経験者の誰しもが通る道。警察は「権利擁護」を目的に、未成年や知的障害者など何らかの理由がある人を匿名で発表するため、実名報道を基本とする報道各社と衝突することがしばしばある。基準が徹底されていない場合もあり、広報室にとっても組織内調整が生じる重要な仕事だ。




『独白の意味』

「これは独り言だけど…」というキーワードに記者は敏感に反応する。捜査に関わる人にとって捜査情報は漏らしてはいけないものだが、義理人情でヒントを教えてくれる場合もある。作品内では記者ではなく、主人公の広報官・三上が元上司から聞き出すのだが、捜査当局と内情を探る部外者との間の緊張関係を物語る一幕で、事件記者としてはテンションの上がる場面だ。

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