今、コーポレートサイトに期待される役割は変わりつつある。情報設計を専門とするネットイヤーグループの坂本貴史氏は、「情報の集約化から分散化へ」の流れを指摘する。現在のトレンドと併せて、コーポレートサイトの改革を考える。
情報を得られる場が多様に
2002年以降、私は主に国内の大企業ウェブサイトの設計や構築に携わってきましたが、ここ数年間でウェブサイトを取り巻く市場やユーザーの利用環境が大きく変化していると感じています。特に、2007年のiPhone発売と2008年のFacebookの日本上陸は、コーポレートサイトのあり方を考える際に、スマートフォンでの閲覧とソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の活用という新たな視点を持つ機会になりました。昨今、そうした利用環境への対応状況を企業ブランディング(ウェブブランディング)の一項目として調査する評価機関も増えてきています。
これまでのコーポレートサイトは、企業の顔(アイデンティティ)として、会社情報の集約という大きな役割を担うと考えられていました。そのため、コーポレートサイトのメニューは画一的なメニュー構成が一般的となりました。例えばWikipediaの「コーポレートサイト」の項目は、「おおむね『会社概要、プレスリリース、製品・サービス情報、住所/問い合わせ先、採用情報、IR情報、新規取引情報』などの情報を含む」とされています。このように、いかに多くの情報を集約して示すかがひとつの方向性でした。
これを「情報の集約化」と表すなら、現在の流れは「情報の分散化」と言えます(図1)。その背景には、昨今の利用環境に合わせた場合、必ずしも情報が1カ所に集約されているという状況が正解とは限らない、という見方ができるようになったことが挙げられます。例えば、会社概要を知りたければWikipediaで知ることができ、最近の動きをチェックしたければ企業のニュースリリースのページ以外でも情報は無数に発信されています。さらに、商品の口コミ情報を知りたければ、検索やSNSを経由して多数の評判が書き込まれていることが分かります。このように、目的に合わせて様々な場所から情報を取得できる環境が整ってくると、必ずしも1カ所に情報を集約する必要がなくなるのです。
「マガジン型」と「アプリ型」
また、ウェブサイトのコンテンツ作成においては、(1)情報を読むマガジンスタイル(読み物系)と、(2)目的を遂行するアプリスタイル(タスク遂行型)の二極化が進んでいます。そのウェブサイトの目的が何かにより、見え方にも大きく影響を受けるようになってきています(図2)。
例えば、2013年にリニューアルされた米コカ・コーラや英ヴァージン社のコーポレートサイトは、企業の顔ではなく同業界におけるマガジン/ジャーナルのような位置付けで再構築された結果、情報発信メディアとしてニュースにも取り上げられるようになりました。一方、国内メーカー企業の大手でもあるキヤノンや花王はアプリスタイルと言えます。一画面中の要素を極端に少なくした構成で、タブレット端末などでも使いやすいシンプルさを追求しています。
このマガジンスタイルとアプリスタイルの二極化には、それぞれの業界や市場におけるポジショニングだけでなく、企業の方向性も反映されています。自社サイトを業界のメディアと捉えて発信者の立場になるのか、あるいは自社に関する情報基盤と捉えてあくまでも検索のしやすさを追求するのか、の2つの方向性です。
「自社メディア」は広報管轄?
企業の多くが「コーポレートサイト」と呼んでいる時点で、広報の管轄だと見えがちですが、「自社メディア(オウンドメディア)」と捉え直すと、広報の管轄だけでは収まりきらないと感じられると思います。ユーザーの利用環境や利用方法で見た場合にも、企業との接点はすべて自社メディアと捉えることができるため、広告はもとより販促イベントや購入サポート、会員向けのメールマガジン発行など「自社メディア」の種類は多岐にわたります。
したがって、それらの情報をすべてコントロールするためには …