欧州のメディアは日本社会や企業をどのような目で分析し、報じているのか。在英ジャーナリストの小林恭子氏が実際の報道や論調をもとにレポートします。

楽天の英国市場参入を伝えるフィナンシャル・タイムズの記事。
日本の名優に長文の訃報記事
英国の新聞を読むときの楽しみごとのひとつに、長い訃報記事がある。誰かの死について知ることを趣味としているわけではないのだが、英国内外の様々な人物の死に至るまでの人生を長々とつづるのが英国新聞界の伝統で、非常に興味深い読み物を手にできる。
政治家や芸能人、大企業の元経営トップや国際的な偉業を成し遂げた科学者など幅広い範囲の人々が対象となり、日本人の名前も時々、目にする。
読んでいて、「短時間に、よくぞここまで調べ上げたものだ」と感心してしまう。多くの場合、死の翌日に本格的な訃報記事が掲載されるからだ。事前に準備しておくか、書ける人のネットワークがあるのだろう。
11月18日、英国の複数のメディアで取り上げられたのが日本の名優・高倉健の死だった。中でも力を入れて取り上げたのが左派系高級紙ガーディアンである。中程度の長さの第一報を報じたほかに、動画も入れた長い訃報記事をウェブサイトとプリント版で掲載した。
後者の訃報記事の書き手はロジャー・メイシー氏。9月には女優「李香蘭」としても活躍した山口淑子の訃報記事を書いており、日本映画に詳しい書き手であることが推察される。
記事は冒頭で、日本映画界の最も著名な人物のひとりで「おそらくその胸部分が最もよく知られている」俳優・高倉健が83歳で亡くなった、と書く。「胸部分?」と一瞬、不思議に思うが ...